匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
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案ずるな。口に合わんでも腹には入れる。
(不安そうな彼女を他所に言い放つと椀を片手に味噌汁を一啜りする。ピクンと耳が真っ直ぐに立つと、椀を置いて箸を取る。焼き魚に箸を付けると身を一口食べる。今度は尻尾がぴくんと立つ。白米や魚、味噌汁をテンポよく口に入れながら、イナリの尻尾は左右に揺れる。ただの味噌汁。ただの焼き魚。何のことは無い。だのに何故こんなにも美味なのか。イナリは上述の言葉を後悔した。いくらだって腹に入る気がした。イナリは妖として生を受け以来、様々なものを口にしてきたが、料理で感動をしたことがなかった。別に不味い訳では無い。大抵は美味だった。しかし美味であっても感動はしなかった。イナリが食べ物でこれ程の反応を示したのは、昨日の飴玉とこの朝食だけだ)
お主…かくの如く美味なものをいつも作っておるのか? 何故この才能を活かさない? 我は斯様に美味なもの食ったことがないぞ!
(まるで幼少に戻ったように節操なく尻尾を動かしながら熱弁する。破顔しながら料理を口に運ぶ様は、傍から見れば子供のように映り威厳なんて微塵もないだろう。ただ今のイナリは体面や外聞などというものが瑣末事に思える程、彼女の料理に熱中していた。そんなこんなであっという間に朝食を平らげてしまうと、満足そうに小さく一礼する。恐らく後々になって自分の振る舞いを後悔することになるのだろうが、今はそんな将来のことなど考えもせず、只々朝食の感動の余韻に浸っていた)
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