匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
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…好きならば口に出せば良いものを。
(苛立ったように呟くと釜を開けて予定より早く炊けた米を確認するために釜の蓋を開ける。一連の動作は普段と変わりない落ち着いたものだが、表情は不快感を隠そうともしない。「私とは比較にならないくらい存在価値がある」。彼女の言葉はイナリを苛立たせるには十分すぎる力を持っていた。なぜ、自分の価値を安易に断ずるのか。なぜ、好意を烏滸がましいと言うのか。言いたいことは山ほどあったが、敢えて口にしなかった。その考えを我が直々に変えてやる。二度と存在価値云々などという妄言を吐かせない。そんな企みがイナリにはあったからだ)
米は炊けた。一々本殿へ配膳するのも面倒じゃ。ここで食おう。我は皿を探してるでな。
(先程までの苛立ちが嘘のように上機嫌に告げると、夜通し整理したガラクタ達に目を移す。こういうこともあろうかと和食器類は残してあったのだ。茶碗になりそうなものや、おかずを乗せれそうな大きさの食器を適当に見繕う。中には金継ぎされたものや、伝統的な手法で作られた希少なものもあったが、イナリはそういうことは全く気にしなかった。使われるためにあるのだから使えば良い。ただ値打ちばかりが上がって鑑賞用にされるなぞ本来の用途からすれば、食器が可哀想だ。選んだ食器達は彼女の近くへ置いておく。土間から上がると社務所の奥へ進み、卓袱台を持ってきて真ん中に置く。これで食事処は完成した。綺麗になった社務所で久しぶりの食事。しかも同席する人間がいる。この事実だけがイナリを上機嫌にさせている理由だった)
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