匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
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……そうね。分かったわ。
(──大袈裟だと思った。きっと、彼は口ではあぁ言っているが自分が寝静まった後にでも一人で片付けを済ませてしまうのだろう。それに、尊大な事を言うなとは思っていたが、赤子とまで言われるとは思っていなかったので少しばかり面食らった気分になる。おまけに風邪を引いた自分は産まれた直後らしかった。自分の傷だって、外気に触れ、鮮血はもう止まっていると言うのに。そんなに繊細でも脆くもないと言い返そうかと思ったが、きっと彼にとって、人間とはそれほど脆い印象が強く残っているのだろう。そう考えると短く、素直に返事をしておく。
長年生きていて、沢山の者を看取ってきたのだとしたら、彼の遠回しに向けられる優しさが何処と無く切なく感じられる。やはり、彼は人間が好きなのだろう。まぁ、大袈裟だと思うのに変わりは無いが。
「戻っているわ」と更に一言付け加えると、またも何かを倒してしまわないように慎重に歩きながら社務所を後にする。
本殿に戻ったあと、ふと、思い出したように鞄の中を探ると、シンプルな黒の手帳型ケースに収まったスマホを取り出す。ケースの内側に備わっているカード入れには、ICカードが入っており、これらを見ると一気に現実に戻ったような気分になる。
なんとなく今まで手にしていなかったが、単純に機能しているのか気になって電源ボタンを点けてみる。
暫くすると、綺麗な海と浜辺の写真が映し出される。遠くに何人かの後ろ姿が写っているその画面を眺めると、幾つか着信が来ていたらしい通知にも視線を移し小さく笑う。恐らく職場から何度も連絡が来たのだろう。開いて見ようかと思ったが、何故かこの画面を表示する他操作ができなかった。
静かにケースを閉じると、何となく手にしたまま布団の中へと潜り、枕元にスマホを置いておく。此処では持っていても仕方ないはずだし…、彼に見せたら喜ぶだろうか、なんて考えながらも目を閉じる。)
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