匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
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(イナリは人間の感情が苦手だった。人間の感情を理解するのがイナリは不得意だから。イナリにも感情はある。だが人間が感じるそれとは違うことをよく知っている。人間が寿命を恐れる感情をイナリは理解できない。長寿な妖だから。人間が人間を嫌う感情をイナリは理解できない。人間はとても興味深い生き物だから。人間が悠久の時を生きたいと願う感情をイナリは理解できない。長寿が時には苦痛であることを知っているから。要は複雑な感情が理解できないのだ。好きなら好きだと言葉で言えずとも行動で示せばいい。嫌いなら嫌いだとはっきり主張すればいい。だって嫌いなのだろう? 単純明快に主張するために言葉を得たのだから。イナリならそうする。だから人間たちもそうすればいい。こういった一種の傲慢がイナリの悪癖の一つだった。実際はイナリだって複雑な感情を抱いているはずなのに。500年以上生きていても、それに気付けないのがこの妖の哀れな所だった。
だから彼女が涙を流しながら呟いた言葉で理解が及ばず暫時フリーズしてしまった。なぜ? なぜ泣いているのに「好き」だという? 自分は人から好かれてないと言ったでは無いか。なのに、なぜ人を好く? 到底理解の及ばない領域にまで思考が発展してしまうと首を傾げることしか出来ない。
やがて彼女が本殿へ戻り始めると慌てて瞬間移動して繧繝縁の上に戻り、寝たフリをする。なぜそんな小細工をと問われれば、女子の後を一々着いて回る不埒な妖とのレッテルは貼られたくなかったから。姿勢も毛布の位置も先程とはえらく違っていたが、寝たフリを貫いていれば寝相が悪いだけだと思い込んでくれるに違いないと楽観して、スースーと寝息を立てる)
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