匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
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…我は妖ぞ。そのような感情を抱く訳なかろう? 昔は人間がひっきりなしに訪れて退屈はせんかった。今は訪れる人間はおらぬが、おかげで書を読む時間ができて退屈はせん。
(彼女の長所が正直さならば、イナリは嘘つきなのが短所だ。正直なことが原因で疎まれるのなら、自分は嘘をついて疎まれるだろうか。今イナリが語ったことに真実は一つもない。妖にも感情はある。寂しさだって何度覚えたことか。愛こそなかったが妻が病死した時も、赤子の頃から知っていた男が天寿を全うした時も、イナリを崇拝していた武士が討死した時も、イナリの心には広く、それでいて深い傷が付いた。人間は弱い。弱いからすぐにいなくなる。折角イナリの傷に瘡蓋が出来て治癒できそうだったのに、また傷を付ける。弱いのに争い、すぐに命を散らす人間に嫌気がさして、一切の交流を絶とうとしてもイナリの傷は癒されなかった。そんなことを彼女の前で打ち明けられる訳もないので、わざとらしく懐から出した書物をひらひらと扇ぎながら鼻を鳴らす。尊大な性格故に弱味を見せることを殊更に嫌がるのが、イナリの悪癖の一つだった)
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