匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
通報 |
(愛が欲しい──その願いに二、三回目を瞬きをゆっくりとする。御多分に洩れず、やれ「億万長者になりたい」だのやれ「あの人間を不幸にしろ」だの強請られると思っていたので、すっかり驚いてしまった。想い人と結ばれたい。運命の人と出会いたい。そう願う人間はいても、愛そのものを願った人間はそういない。彼女は性愛ではなく、愛情が欲しいのだろうか。暫時その場で思案していたイナリは、腕を広げると彼女をその中で包み込む)
……。
(これで良いか。お主と釣り合う者を与えてやろうか。そんな言葉が出掛かったが、ぐっと飲み込む。実の所イナリは愛というものがよく分からなかった。五百年も生きていれば、妻もできたし情事もした。だがそれは愛ではなかった。相手に乞われたから。イナリがイナリの意志で誰かを想い、存分に愛したことはなかった。ぎゅうと身体を抱きしめたはいいものの、イナリはすぐにでも離れたかった。彼女に触れてから違和を感じていた。まるで身体の奥に火が灯っており、じわじわと焼かれている感覚。それでも、一度初めてしまったら彼女が満足するまで続けなければならない。加減を間違えないように優しく抱きながら、自身の身体の違和感とも対峙しなければならない。そんな中でイナリはじっと彼女からの言葉を待った)
トピック検索 |