匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
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…そう、そうよね。貴方の言う通りだわ。
(人間の記憶力は長くない、その言葉には同意を示すように深く頷き、視線を再度地面へと落としたまま力なく言った。せいぜい人々の記憶に残るものと言えばたかが知れているし、自分のような人間はほとんど記憶に残ることも無いだろう。その事実を飲み込んでしまった今、喜べばいいのか、寂しさに泣けばいいのか、自分が招いた事なのになんとも複雑な気持ちになる。
それでも、もう一度あの教壇に立ちたいかと言われれば勿論そんなことは無いし、実際の表情は無に等しいまま。
ふと、何も言わずに本殿へ入っていく相手の後ろ姿を眺めていると、少しばかり待ってみるがなかなか戻ってこない。そこら辺に腰でも下ろしておこうかと思考を始めた時、戻ってきた彼が着物と布を差し出してきたので、一先ず腰を下ろすのはやめた。濡れている自分の事を気遣ってくれたのだろうかと察すると「…ありがとう。」と礼を述べ、促されるがまま奥の方へと歩みを進めて着替え始める。
濡れた衣服を脱いで身体を拭くだけでも大分冷えは治まり、借りた着物に袖を通すと、その肌触りに少しばかり目を開く。
数分が経ち、着物へ着替え終えて姿を現すと、黒髪も相まってスーツ姿よりもマシなのではないかと思う。)
……この着物、とっても上質ね。年季が入っているようだけど、綺麗に保管されていたのが分かるわ。
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