匿名さん 2024-01-05 19:35:07 |
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…ッ
……あ、ああ。これか。…いつもそんなに吟味して選んでおるのか?
(小さく声を漏らしたのが気になってどうしたと問いたくなったが直後に、腕を握られては少しだけ肩が跳ねるも、大人しく受け入れる。いつもだったら「我に安易に触れるとは不敬じゃ!」だの「女子が斯様なことをするとは破廉恥じゃ!」だの言って、さっさと腕を振り払ってしまうのだが、今は状況が違う。例えるなら彼女は異国の地で頼れる唯一の希望の星だ。腕を振り払って彼女が機嫌を損ね、一人帰ってしまったら大変だ──実際には彼女はイナリと違ってそんな短気では無いのだろうが──だから無下にはできない。腕を握ってくれている間は、彼女がどこにも行かないということを確約しているも同然だ。此処は少しばかり恥ずかしいが、周囲にはどうせ見えないのだし、大人しくしておく。それに彼女が触れていると僅かに温もりが伝わり、不思議と心が落ち着く気がする。
とは言ったものの、やはり中々落ち着かない。彼女が指差した商品をカゴに入れ、彼女が吟味している間は、周囲の人間を観察する。相変わらず何をしているのか分からない。耳に何かを挿している者もいれば、四角い時計のようなものを付けている者もいる。「すまーとふぉん」は分かるようになったが、一方で知らないことがどんどん増えていく。いつもは適当に選んで逃げるように買い物を済ませていたから、一つのコーナーに長く留まることがなかった。商品を吟味する彼女の横顔を見つめながら、周囲に怪しまれないように小さな声で訊ねる)
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