通りすがりさん 2023-12-27 11:12:37 |
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【 妃 硝華 】
ふふ。えぇ、エスコート有難う。また後でね。
( エスコートの最後まで紳士然とした丁寧さで王子様の優しい手から離れて自分の席へと落ち着けては、息をするように自然な動作で頭を下げる〝彼〟へとふわりと微笑んで手を振って。相も変わらず、1秒たりとて王子では無い瞬間が存在しない我が幼馴染にいつものことながら本当に尊敬してしまう。…否、存在しないと言うよりは、〝彼〟自身の本質が其れなのだろう。顔には出ないようになったけれど内心はいつもどきどきときめいて止まないのだ、硝華は嬉しさ半分困った半分の笑みをこっそりと零せば授業の準備をしつつ早く放課後にならないかしら、なんて我儘なお姫様のようにこっそり思案して。─── 無事に全ての授業が終わり、授業の途中に返された小テストは無論満点だったし体力測定の結果も上々、いつものように完璧な淑女で居られたはずだと安堵の息を吐いてはサテ帰ろうとふと外を見れば雲行きが怪しく、暗雲が広がり始めている空を見ては不安げに眉を下げて。 )
【 椿 】
なっ、……からかわないで!
( ふわりと風で拡がった鴉の濡れ羽色の髪は、絹糸のように繊細で、美しい。思わず其れに目線を奪われた後にするりと耳に届いた彼の言葉にぱっと頬に朱を散らしては照れ隠しなのだろう言葉を一言。きゃんきゃんと鳴く姿は警戒心の強い小動物のようだが、椿はつん!とそっぽを向いた後に心の奥底では〝また…!〟と自身の行いに頭を抱えて。すると、暫く沈黙していた彼から告げられた名前に大きな蘇芳を丸くしては「 ─── 葵依。…勿体ないわ、素敵な名前なのに忘れるだなんて。 」とその鈴のような声でころころと笑って彼の名前を繰り返し。名前を忘れるだなんて、彼はどれほどの長い年月ここに一人ぼっちだったのだろうか。反対を返せば、彼の名前を呼ぶヒトの子は〝以前はいた〟ということだ。だがしかしヒトとそうでないモノの寿命の差を考えれば─── …椿はそこまで考えて、屹度此方を見つめているであろう黒布の向こうの彼と目線を絡めては「 じゃあその分、私が葵依を呼んであげるわ。忘れないように。 」と椿の花のようにぱっと美しく微笑んでみせて。 )
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