館の魔女 2023-10-17 21:30:43 |
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「承知致しました。私はいついかなる場合でも参じます故、もし何かあればすぐにでもお呼びください。それでは、少しばかり失礼致します」
一時の暇を出され、その場で胸に手を当ててお辞儀をするとそのまま部屋を後にした。大きな音を立てぬように配慮された小さな足音で、案内された自分の部屋に向かいながら自らの主人について思いを巡らせていた。
新たな主人は優しい御方である、というのが今日を通しての印象である。自分を雇ってくれたことから、丁寧な説明や言葉遣い、好かれているのであろう精霊達の動きなど、今日一日だけで主人の穏やかで思いやりのある人柄がおおよそ把握することができた。今の自分にとって、このような素晴らしい主人と巡り会う事ができたのは本当に僥倖だったと心から感じている。“役に立てることなら何でもしたい”とまで自分に言ってくれた主人に報いる為にも、研鑽を重ねて立派な使用人として主人の名に恥じない働きを遂行したい、と決意を新たにした。
部屋に到着すると、まずクローゼットに外套を掛け、それから持ち物を整理し始めた。元からそこまで所持品が多い訳ではなかったので作業自体はそれほど時間をかけずに済んだ。一通り作業を終えたところで、小さく息を吐くとその場で自分の手を空にかざして何度か回転させた。一片の露出もない、完全に鎧で覆われた腕。手を出した際、主人は気にしなくてもいい、と言ってくれたが、いつかは理由を話さねばならないだろう。
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