龍神 2023-08-20 23:05:18 |
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(戸惑いも驚きも全てを置いてきてしまったかのように、許容を超えた現象を前にしてはなす術なく無力を晒す事となり。今日という一日が夢の中の出来事では無いなら、少なくとも出向いたのは赤煉瓦が織り成す風情に溢れた喫茶店で薄い膜を張るような湿った空気の洞窟ではなかった。意識が頭の働きに結び付くのに時間を使うと、驚いたと状況の処理が終える頃には体が宙を浮き抱えられた姿で身を任せていた。内部では抑えられないくらいに確かな鼓動を繰り返す心臓が、より焦りや戸惑いを強調してしまう。痛みすら与えるドキンドキンと高鳴る緊張の音に喉が渇くほどの恐れが浮かび、そんな感情を簡単に塗り替えてしまうほど綺麗な笑顔が迎えてくれた。子守唄のように甘く優しく聞こえる声が状況説明と言うにはざっくりと説いてくれた事で少しだけ、本当に少しだけ視野を広げることが出来たらしい。今あたしがいる場所はどこ?どうしてお父さまがいないの?お面のあなた達は誰?──無事に帰ることが出来ない可能性も?。ぎこちなく呼吸を行うと、優しくとも冷たくともどちらにも見えるからこそ底が見えないお兄さまの顔を二つの目が追いかける。まぁるく開いた目は不思議そうに彼の顔を追いかけたまま、ぺたんと女の子座り。体の力が抜けたと言うのが正しいのかもしれない、お祭りのような太鼓や笛の音が日常を切り離すようで怖いだなんて。そんな風に思う己がいることにもびっくりしたのだ。そんな風に頭を悩ませることすらこの場所には相応しくないと教えられるように気がつく頃にはお遊びの内容が決まっていた。愛想という愛想を振りまくように、小鳥が囀るような愛らしくか弱く見せた笑い方で微笑むのは甘皮だけ。薄い皮の外で柔らかく穏やかに笑みを魅せると「お兄さま。あたし負けちゃう賭け事はきらいよ。運否天賦に身を任せるのに人の子がお兄さまに勝てるとは思えないもの」お父さまとのやり取り、人の子と言う呼び方、お面をつけた小さな子のお兄さまへの接し方。そのいずれもがお兄さまが普通とは違う事を象ることだけは理解ができる。そんなお兄さまと大事な条件を賭けて遊ぶなんて、そんなのきっと「──お父さまに嫌われちゃう」そうよ、そう。お父さま。お父さまに嫌われちゃう!その想像は右も左もわからないこの状況下よりもずーっと恐ろしい!そんな思いが乗った声でぽつりと呟き。仔猫が甘え擦り寄るように、しゃなりと前のめり。すらりとした首を伸ばして、朱色の座布団にぺたりと両手の平をついた姿でずっと抱え込んでいた興味や好奇心を少しも隠さずに輝きとして眼に浮かべ、お喋りの催促を。)
お兄さま、ひみつにしてね。あたし、びっくりしちゃったの。だって、お父さまったらお兄さまの前だと子供みたいだったわ。あんまりにも可愛くて、ふふ。ね、お兄さま。お兄さまもそう思うでしょ。
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