メビウス 2023-07-08 06:38:01 |
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…あ。
(コンビニでいつもの昼食─300円の弁当を買って食べ終わり、食後の一服でもしようか、とふと思い立った。見るからに安っぽい、ピンクの百円ライターとメビウスの箱を片手に、もう片方の手はくしゃくしゃのレシートと共にポケットへ押し込んだまま、この世界で唯一の安息所ー雑居ビルと企業ビルの間に肩身狭く挟まれた隙間、その片隅にぽつんと立つ、静かな喫煙所へ向かう。いつものようにクロックスを履いた足を踏み入れようとした時、喫煙所の中の人影に気づいて僅かに声を洩らす。それは普段よく見る、こんな場所に態々やって来る物好きな人─だらしないスウェット上下ではなく、きちんとスーツを着込んで、窮屈そうなネクタイを締め、タトゥーもピアスも見た限りは見当たらない、しっかりとした革靴を履いた、自分とは正反対の世界で生きているのだろう、…自分には眩しくて仕方ない、と思わせる人物。そんなことをふと思ってしまい、一瞬入口で入るのを躊躇ってから、周囲をそれとなく見回すとため息を漏らし、できるだけ背筋を丸め、瞳を伏せ気味に、足音を殺して喫煙所の中へ入ると入口近くで箱から煙草を一本抜き取る。ライターで火を点け、煙を口から緩やかに吐き出しながらその人物へ声を掛ける。)
…あの、どうも。最近…よくいらしてますよね。
(こちらこそ、宜しくお願い致します)
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