お嬢 2023-06-05 20:42:11 |
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─── … 違うわ。はじめましてじゃない。…だって私、…貴方の香りを知ってる。
( 玄関で待つことしばらく。見慣れた車に嗚呼ハチが迎えに行っていたのねなんて思いながらも、少しだけいつもよりも早く波打つ心臓を大人しくさせるように深呼吸をする。別にこうして帰ってくる組員を出迎えるのは初めてでは無いのに。車から降りてきた姿にふ、と視線を向けては、そこには自分が想像していたよりもずうっとすらりとした身長の美丈夫。とても子どもの面倒を見ていたようには思えないし、どんな女でもころりと落ちてしまいそうなその美貌は自分の薄らぼんやりとした記憶を覚醒させることはなかった。本当に私の面倒を見ていた人…?と悩んだのも束の間、木蓮と此方に名乗った美丈夫からふわりと香ってきた香りにハッと満月のような瞳を丸くさせては、はじめましてと告げた相手の言葉をぽつりぽつりと否定し。彼の傾国な端麗さも覚えてないし、幼い頃面倒を見てもらっていたというのも〝昔誰かがよく遊んでくれていた〟という薄ぼんやりとした記憶しかない。だが、人間の記憶で最後まで残るのは香りだと何処かの本で読んだ其れと同じように、美澄の記憶には確かに目の前の彼の香りが残っていた。香水かも、それとも彼自身の匂いかも分からないけれど、たしかに脳裏に残っている香り。何だか安心して眠くなってしまうようなそんな香り。と、美澄は思わず口から出た言葉に我に返ったのかぱっと口元を手で抑えては、ひとつ咳払いをしたあと「 ごめんなさい、気にしないで。父さんなら奥の部屋よ。貴方が、…ええと、木蓮が帰ってくるって朝からずっとソワソワしてたの。 」と先の其れを誤魔化すようににこりと微笑んで。 )
( / すみません、私の不手際でお騒がせいたしました…!! /蹴可 )
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