主 2023-03-12 23:09:40 |
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(燈が席を空けて数分、奴は面倒事を俺に押し付けて一服しているに違いない。ずるいぞ。)
「なぁ。えー、あー。」
(何て呼んだらいいか分からず手元にある履歴書に目を通す。部長ねぇ。)
「あー部長さんでいいかな?とりあえず。」
『好きに呼んでいただいて構わない。』
(部長の受け答えは淡々としているが、そこに生気は感じられない。)
「聞きたいことが3つある。こちらから質問いいかい?」
『ああ。構わない。』
「そうかい。じゃあ1つ目、どこでの会社の存在を知った?表向きは極普通の企業けど?」
『数か月前、元勤務先の近くで禍憑鬼が出現し避難勧告が出た。隣のビルが襲撃された時に私は見た。巫女装束の様でありながら近代のものの様な服に太刀から斬撃を飛ばし禍憑鬼を一刀の元に伏した女性を。』
「‥‥。それとウチに何か関係が?」
『服にMEFと書かれていた。調べていくうちにここにたどり着いた。それに、』
「それに?」
『あれはコーヒーを淹れ直しに行った彼女だろう?』
「はは、お見事。」
『ああ。』
「では2つ目、何をしにここへ?」
『私がこの不思議な力を授かったのは何故か、何の為に。それを知りたかった。』
「それについては説明しよう。部長さんがその能力を自覚したのは最近だったね。」
『ああ。』
「それはね、部長さんの言う通り授かったものだね。後天的に。正確には受け継いだものかな。」
『受け継いだ…。誰から…。』
「亡くなった奥さんから。」
『妻から。…いや待て妻は一度もあんな光を放ったことなど…。』
「力ってどんな時に現れると思う?」
『わからない。』
「力っていうのはね。人の感情や思いの具現化なんだ。感情や思いの強さによって力が引き出される。もしくは神をもその思いに憑かせる。奥さんが亡くなったのはご病気?」
『…ああ。』
「無礼なことを聞いて悪い。つまり奥さんはずっと生きたいと願っていた。そして部長さんあなたは奥さんに生きていてほしかった。」
『ッ…その通りだっ!!!…、すまない。』
「いや、それが思いというもんだよ。」
『‥‥。』
「奥さんの生きたいという思いが力を発現させ、自分の最後に奥さんは部長さん、あなたに生きてほしいと思った。二人の思いが重なり感情の心門が開いた。生きていてほしいという思いが対象を浄化し元の形に変換するというこの世で最も優しい能力になってあなたに託されたんだ。」
『…そうか。』
「最後の質問。燈の最後の問には何故答えなかった?」
『…。私には豊子のいない世界で生きる資格などないのだよ。私たちには子供はいない。というより出来なかったんだ。豊子はずっと悔やんでいた…。私はそんな妻の姿を見たくなかった。毎日仕事に明け暮れ気付けば部長という立場になっていた。ある日妻が病院で子供と楽し気に話しているのを見たんだ。あんな豊子の顔は初めて見た…。私は立ち尽くしたよ。足が動かなかった。その後病室に行った時には妻の目元は泣き腫らした後があった。私は…どうすることも…できなかった。』
「だから死んでもいいと?」
『豊子を悲しませてしまった私だけこの世に生きていていいはずがなかったんだ…』
「さっきも言ったが本当にそう思うか?」
『この気持ちは拭えないさ。君も愛するものが出来れば分かる』
「そうか…なら死んでもらおうかな」
『…どういうことだ』
「そのまんまの意味さ…ついてきな」
(席を立つと訓練場にいる守と理沙に少々使用する旨を伝える。訓練場に向かい足を進める途中)
「そういえばさっき、君にも愛する者ができればわかるって言ってたよな。」
『…ああ。』
「俺にも妻がいてな、うちはお互いいつ死ぬかわからん仕事をしているからか悲しいとかそういう感情は表には出さないんだ。それに俺は彼女の強さを知っている。そして…」
『…そして?』
「どんな時も彼女を信じているし信頼してもらっている。だからどちらかが死ぬ時はは笑っているはずだよ。」
『…そうか。』
「それにあいつは簡単には死なないね。なんたって最強だから。部長さんも見たんだろ?」
『…なんのことだ?』
「刀から斬撃飛ばして一刀両断なんて燈らしいよな笑」
『ッ!まさか!』
「まあ、本人は覚えてないだろうけどね。さ、着いたぞ」
(訓練場に着くと守と理沙が片付けをして待っていた。燈には連絡入れたけどまぁいいか。どうせ《中に入る》からな)
「部長さん、死ぬ準備はできたかい?」
『…ああ。』
「そうかい。」
『最後に名前を聞いても?』
「んー、はは。《対マガツキ専攻対策結社【エモーショナルフォクシー】》代表取締役社長兼狐緋人、陰陽頭 稲荷家当主 稲荷日影。」
『そうか。君が…』
「なんか言ったかい?」
『…いや、なんでもない。始めてくれ。』
「そうかい。着装!」
(瞬時に狐緋人の制服とガントレットに切り替わる。そして手を合わせると同時に術式を唱える。)
「《御ソワカ御ソワカ・逢瀬愛染号哭の時・死してこの身修羅の道・合わせ会わせて冥利の道連れ》裏返せ【冥道彼岸】」
(術式と共に世界が裏返る。辺りには彼岸花が咲いている。一人佇む部長の前に一人の女性が現れる。)
(さて部長さんはどうするのかな。こういうお涙頂戴は燈の方が得意なんだけど…まぁあとは本人に任せよう。術の解除は俺がするよー。)
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