狐緋人

狐緋人

主  2023-03-12 23:09:40 
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___其ノ社滅ビル時、狐緋人モ滅ブ。禍憑鬼ヲ退治シ社ヲ死守セヨ。___






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  • No.26 by 稲荷 燈  2023-04-12 22:51:02 




(廃墟と化した本部の最奥地。天上の壁は破壊され既に吹き抜け状態。空は雲一つ無い青天で割れた硝子窓からは木々が手を伸ばし室内に侵入している。
幻想的な屋内、それなのにこの部屋“だけ”が異様なまでに肌寒く、薄暗かった。
下の階へと続く階段にゆっくりと向かっていた所、忙しない足音と共に相手が現れてはゆらりとした動作で顔を上げる。相手の背後に見える神々しい存在がぼんやりと伺え人差し指を向ける。)
「ひ、…ふ、み、…三体。すごいね。すごいね日影は。あははは、私は一体だけ。一体、それなのに、一体とちゃんと印を結んで、…結んだのに、もう、声も聞こえないの。どこに行っちゃったんだろう。」
(最早相手の背後にうっすらと見える息子の存在さえ我が息子と判別できず、相手が三体もの神々と印を結んだものだと思い込んでは黒い液体が頬を伝う。恐らく相手には天照大御神と息子の存在は見えていない。声が聞こえるのみ。しかし、普段の思い込みや劣等感が増大した自分にだけはその姿をしっかり見据える事ができて。)
『おや、まだ姿はしっかりとは見えていない様ですね。…でも大丈夫。ぼんやりとでも姿が見えているのならもうすぐです。完全対までもう少し。』
(相手の背後にいる存在がはっきりと見えている晴明は勿論、一人が自分の息子である事も見えている為、認識出来ていない自分に対して優しい声色で語り掛ける。)
自分に向けて左手を突き出し構えを取る相手に眉を下げ小さな声で呟く。
「………勝てない。勝てないよ。だって私、」
『奥様、…いや、燈。何も恐る事はありません。ご主人が、日影が憎くはありませんか?』
「…憎くない。だって、」
『思い出してみてください。本部から用意された訓練初日、刀を扱う基礎を何度も練習している燈の隣で武器をすぐ使いこなしていた彼を。』
「………それは仕方ないよ。だって日影とは武器が違うから、」
『ああ、逃げてはいけませんよ燈。分かっている筈です。闇は正直だと。“私達の武器が同じじゃなくて良かった。”“武器が同じだったら才能の差が目に見えてしまうから。”“斬撃を負わせられるのは私だけ。”“でも、この刀を日影に渡したらきっとすぐに使いこなしてしまう。”…良いですか?貴方の不安の種は目の前いいるのです。』
(晴明の言葉に瞳の翳りが増して行き。刀の切先を地面に向け柄を掴む両手をゆっくり掲げる。全身の力を込め地面に刀を突き刺したその刹那、刃先からどろどろとした闇が広がって行き部屋を侵食していく。重苦しい室内は呼吸をするのも精一杯で、まるで水中にいるかのような息苦しささえ感じさせるもただ一人自分だけは平気だった。真っ黒な狐面の表情が歪み般若面の様な表情に変わる。再び刀を振るい相手の胸元目掛けて斬撃を与えれば黒い液体が空中で舞い釘の様な形に代わり相手の胸元に襲い掛かるも寸の所で受け止められる。右手を緩やかに伸ばし黒い液体を操り相手の両腕を拘束しては一気に距離を詰め胸元の釘に両手を添える。力を込め、釘で貫こうとしたその刹那、)

『-燈の作戦計画書は本当にわかりやすいな!文才あるよ。俺こういうの書けないからさ。-』
『-俺頭悪いから正面からぶち込もうと思ったけど今回の敵のタイプ的にすごい不利だよな。よくこんなの考えられるよな燈は。流石だよ。-』

『-あーもしもし?今から帰るよ。今日の弁当の卵焼きが最高だった!これが無いと仕事できないからさ!-』

(脳裏に蘇る相手の声。ぴたりと動きが止まっては相手の胸元に突き当てている釘が溶けて行く。涙が溢れる度真っ黒に閉ざされていた視界も、今はただ穏やかに歪むのみ。透明な涙が頬を伝う。)
『-燈。聞こえるか。儂じゃ。…全く、“どこに行っちゃったんだろう”とは聞いて呆れるわ。儂はずっとここにいた。お前さんの名前を呼んでおった。無視していたのはお前さんの方じゃろうが。-』
(自分の両腕に巻き付くように澄み渡った水の膜が絡みつく。溢れ出る涙は止まる事を知らずにぼろぼろと地面に落ちては、そこから本来の地面の色が顔を出す。)
『何をしているんだ!!!!!燈!!!聞くんじゃない!!!!!お前こそ最強の、』
「………駄目だ。できないよ。日影は強いけど、私がいないと。…ほら、卵焼きが無いと、働けないんでしょ?だから___ッ!!!!!」
(瞳に光を取り戻し、ぐしゃぐしゃの顔で相手に微笑んだその刹那。辺り一面の闇が集まり鋭い切先に形を変えては自分の胸を貫いて。)
『話を、聞くなあああああ!!!!!!!!!!』
(晴明の怒声と共に口から血が溢れ出す。相手の頬に伸ばした手がずるりと滑り落ち鈍い音と共に地面に崩れ落ちる。闇は天井に集まっていき大きな円形の陣を描くように渦巻いては晴明の声が響き渡る。)
『もう良い。用済みだ。私はこの肉体、燈の肉体を手に入れる。』



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