匿名さん 2023-03-08 21:19:11 |
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( 少しの間を置かれて返された就寝の挨拶には、奇妙な充足感があった。ひたすらに平穏な暮らしというものが、きっとこういうところに滲み出るからだろう。月明かりを頼りに進む廊下で、知らず知らず口元は笑みの形を象っている。手元のカップを置きに一度は部屋に戻ったが、その後すぐに大きな盥を手に中庭へ出た。ちょうど月に雲がかかり、手元も怪しいような具合だが、慣れ親しんだ作業のおかげでさほど苦労することはない。井戸から汲み上げた水で満たされた盥が二つ。育ちゆえかこまめに身体を清める貴方に感化されるように、いつのまにか己にも身についた習慣だった。それぞれの部屋へ運んだあとは自室に戻り、蝋燭をケチりながらごく簡単な水浴びを済ませる。すっかり冷めてしまった香草茶を情趣もなく一気に煽ると、そのままのっそりと寝台に入った。悪夢に飛び起きることがあるとしても、寝つきは比較的いい方だ。夢の世界へ転がり落ちるほんの少し前まで、伏せた瞼の裏には夕焼けのように赤い瞳がちらついていた )
(/ かしこまりました。
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