主 2023-02-11 00:33:03 |
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『もう、爛が来てから表情暗いよ。…一応彼女に見られてるんだからしっかりしないと。と言うか二人は別に付き合ってるわけでもないんでしょ?何も気にすることないよ。』
「…まあ、それもそうか。」
(茶屋にて兄と向き合う形で座り茶を啜るところ、己は先の相手との一件で上の空。
一番見られたくない相手に“仕事現場”を見られ、恐らくだが不快な思いをさせてしまった。
ほんの少し、もしかしたら相手が怒る理由が嫉妬しているからなのではと自惚れがないわけではない。
だが然し、兄と関わるなと何度か言われてきた。
十中八九、苦手な兄と恋仲関係にあること事態が不快なのであって、其処に深い意味はないのだろう。
直ぐに弁明出来ないもどかしさと無意味に傷心する己自身に嘆息が零れ。
『ちょっと幸せが逃げていくんですけどー。ねぇ、今日はうちに来ない?…あー、変なことはしないよ。彼女も流石に人の家の中までは覗いて来ないだろうし、一緒にお酒飲むだけ。…家の中に一緒に入ってくところ見せつけるだけ。』
「…それで満足してくれるんだろうな。」
『さあね、でも早いところ満足してくれないと御婦人も待っててはくれないから“仕事”は早く片付けないと。』
(兄の言うことは最も。“仕事”と何度か口にしてくれるのも己が割り切りやすいように配慮してくれているのだろう。
相手には仕事が片付いたらちゃんと説明しようと蟠る胸内に気付かないふりをして「…分かった。今日は燐の家に行くよ。…楽しみにしてる。」と机の上に置かれる兄の手に指先を這わせて重ね柔く微笑んで。
(一方、丘付近。相手とすれ違った己に良く似た女性は相手とは初対面だが何かの縁を感じていた。
そして1つ聞きたいことを思い出し振り返ると小さくなった相手の背を追いかけて『あ、あの…すみません。』と僅かに息を弾ませて声を掛け。
『突然御免なさい。貴方、この辺りの人かしら。…私、寺子屋に行きたくて、良かったら場所を教えてくれると助かるの。地図を持ってきたのだけど風に吹かれて水溜場へ落として滲んでしまって…。』
(女性は既に乾いているが炭が滲んで何が書いてあるかわからない紙を見せて困り顔で微笑む。
斜め掛けで背負われた風呂敷には結構な荷物が入っていて、履物の草履も何処から歩いてきたのか潰れていて足も赤い。
『…ああ、でも用事があるわよね。追い掛けてきて御免なさい。』
(なんだか懐かしくてと微笑み頭を下げて女性は去ろうとしたがプチンと草履の鼻緒が切れるとバランスを崩し、荷物の重みもあり背中から相手のほうへ体が傾いて。)
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