主 2023-02-11 00:33:03 |
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(気晴らしに街へ来たつもりだったが飛び交う相手と兄の話に苛立ちは最高潮。
呼び止められた魚屋の店主の言葉にいつもと変わらないままの無表情で「さぁな。俺は特に何も聞いていない。」と答えては続け様に「其れも良いな。だが生憎俺の稼ぎが悪いもんでね。あんたんとこの大事なお嬢さんにひもじい思いをさせる訳にはいかない。」と僅かに表情を緩める。
甘味処をふと通り掛かれば最近会ってさえいなかった貴人の令嬢と出会し、お茶に誘われるも甘味処の椅子に座り話し込んでいる女子達の会話が耳に入れば僅かに眉を寄せる。
『聞いた?燐さんと寺子屋の先生が恋仲だって噂!』
『勿論よ!でもちょっと残念。寺子屋の先生ちょっと狙ってたのに…。』
『冗談は良しなさいよ。其れにしても本当に絵になるなぁ…あの二人。でもさ、燐さんって何のお仕事してるのかしらね。』
『此の前うちのお父さんの大工仕事手伝ってくれたのよ。其の前は芝居で穴が空いた役を代役してたらしいし。』
『私見に行ったのよ。代役とは思えなくて驚いちゃった。』
『器用よね。頭が良くて優しい先生と燐さんか…。本当にお似合い。』
(沸々と全身の血液が沸騰するような感覚を覚える。
己はこんなにも短気だっただろうか。
令嬢の誘いをやんわりと断っては大人しく帰ろうと引き返す。
大股でくるりと振り返った事に激しい後悔をした。
『あれ!爛じゃん。何してんの?』
(満面の笑顔で手をひらひらと振る兄。…と兄にしっかりと手を取られている相手。
最悪の機会に咥えていた煙管を落としそうになるも変わらぬ無表情を貫く。
甘味処から湧き上がる黄色い歓声に応える様に町娘達にもひらひらと手を振る兄は、一人駆け寄って来た町娘の『あ、あの!お二人が恋仲って噂は、』と問い掛けににっこりと微笑む。
『えーもう噂になってるの?恥ずかしいなぁ。そうだよ。露草は女の子に人気があるから俺いつも冷や冷やしてるの。だから手出しちゃ駄目だよ?』
(見せ付ける様に相手の頬に口付けを落とす兄。
問い掛けて来た町娘は顔を真っ赤にしながら友人の元へと戻り話に花を咲かせている様子。
平静を装いながらも呆然とする。
昔から兄はいつだって己の欲しい物を奪い、見せ付けて来る。
「お熱いこった。」
『まぁね。爛も恋人の一人や二人作れば良いのに。』
(兄の横で何も言わない相手に苛立ちが走る。
正直、町娘の問い掛けに答えた兄の言葉を撤回して欲しかった。
いつものように兄に対して鬱陶しそうな表情であしらって欲しかった。
己に対しての、此れまでの言動、表情、態度、嘘だったのだろうかと身勝手な嫉妬心を感じるも、ふと冷静になる。
___嗚呼、そういう事だったのかと。
「まぁ仲良くやんな。俺はもう行く。」
(煙管の煙を吐き出し相手の横を通り過ぎる際、相手の肩にぽん、と手を置き耳元に唇を寄せる。
「俺に良くしてくれてたのは俺の顔が此奴と瓜二つだったからか。危うく騙されるとこだったぜ。…あんたはつくづく人を狂わすのが得意だな。先生よ。」
(吐き出した言葉に自分自身の心が痛んだ。
相手の顔すら見れずに逃げる様に大股で其の場を後にして。
(行く宛も特に無く、昼寝がてら丘へでも向かおうと街を出ようとした時。
ふと己の前を通り過ぎた長い藍色の髪に目を惹かれ、其の細い腕を掴んでしまい目が合う。
無意識だったが故、すぐにぱっと手を離し「…悪い。」と小さく謝罪をする。
何処と無く相手に似てはいる物の、目前にいるのは女性。
己の謝罪に対し緩やかな微笑みを浮かべ軽くお辞儀をする様子まで相手と良く似ていた。
通り過ぎる女性を見送ってはまたやるせない気持ちに襲われ、誤魔化す様に丘へと向かって。
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