主 2023-02-11 00:33:03 |
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(三毛猫を無事に菖蒲の元へ届けて仕立て屋へ行き、気の向かないまま兄と共に男色を演じあろうことか其の様を相手に目撃されるという目眩がするような一件があったのは昨夜のこと。
今は寺子屋にて子供たちを迎えるところ。因みに兄も一緒だ。
昨夜は相手が来た時、背筋が冷えて動揺と焦燥で一時演じるどころではなくなったが兄の言葉で我に返る。
あくまで“仕事”。女主人もフリなのは分かってるから本当に接吻やら戯れをしろと迄は言っていない。出来るならしてしてほしいらしいが…。
結局のところお互い軽く着物を乱し触れたりはしたが、肌に唇を寄せたりは素振りだけで寸止め。
お戯れ程度しかしていない。其れだけでも嫌悪感はあったっが女主人は納得して最高の素材を早急に仕立ててくれることに。
仕上がり次第連絡をくれるとのこと。然し問題が一つ。女主人は受け取りにも条件を付けてきて、値下げもするから兄との恋人関係をもっと見たいと。
其れも街中や日常生活の交わりを見たいらしく、女主人は隠れて見ているから兄と己は其れっぽく過ごしてほしいらしく。
兄はもっぱら乗り気で『勿論、其の代わり此れからもご愛顧させてね。』とちゃっかりしており。
そんなこんな朝から女主人の姿は隠せていても濛々とした気配と視線を感じながら今に至っているわけで…。
元気よく訪れる子供たちに手を振り笑顔で迎えるも心は曇っており、
『露草、目が笑ってない。子供は敏感なんだからバレるよー。』
「…笑ってられるか。というかあの仕立て屋の女、ずっと見てて仕事はちゃんとしてくれるんだろうな。」
『其処は信用出来るから心配いらないよ。俺もいつ寝てるんだろーって疑問だったけど、彼女にとっては衣食住よりも此れが生きがいらしい。』
(そう言って子供達の前でくっつき『お兄さんたち仲良しー。』と戯れる。
其処へ少年が貸していた着物を持ってやってきて『…二人共恋人同士なの?』と。
女主人が見ている手前兄は『そうだよー。熱々なんだから。』と笑って。
『…へえ。またそんなことしてるんだ。……爛可哀想。』
「…また?」
『なんでもないよ。…はい、借りていた着物。ありがとうって爛が。』
「…ああ、小太郎くんも持ってきてくれてありがとう。…その彼奴の様子はどうだった?」
『ちょっと元気なかったかな。』
(しゅんとする少年にもし昨夜のことで相手に嫌な思いをさせたのなら弁解する必要があると思い。
否、本当にその必要はあるのか。
そもそも誰だって人の戯れを目撃したら不快だ。しかも距離を置いている兄絡み。
相手とは恋仲でも何でもない訳で弁解する意味はあるのか。
ただやはり誤解をされたままは嫌なので相手には真を伝えようと思った時、
『爛にはまだ言っちゃ駄目だよ。知らないほうが“フリ”が真実味増すし、仕立て屋の彼女も楽しめると思う。』
「俺は何も言ってない。」
『でも直ぐにでも伝えようって顔してた。駄目だよ、まだ。』
「…わかったよ。」
『じゃ、そういうことで後はお手伝いさんたちに任せて俺たちは街へおでかけに行こう。』
(どこまでも用意周到な兄、今日は街へ出掛けられるように教鞭を執ってくれる人材を確保してくれており、己たちは街をぶらつく予定で。
女主人にも良く見えるよう手を絡めて握り
『今日も楽しもうね。…あ、頬に接吻くらいはあり?』
「…仕事と言われれば、」
(眉を寄せて無愛想に答えるも女主人に仕事放棄されては困るため手だけは軽く握り返して街へと足を進めて。
(一方其の頃、街。入念な兄、其れっぽい雰囲気作りのため裏工作に余念はなく街に己との関係を仄めかす噂を流していて。
噂好きの街の人々、すっかり其の噂は広まり、魚屋の店主の男は街を歩く相手を見かけるやいなや『おー、兄ちゃんこっちに来てくれや。』と手招いて。
『聞いたぞ、御前にそっくりのあんちゃんいるだろ?寺子屋の先生とそういう関係になったらしいじゃないか。そんな素振りちっとも無かったのに、どうしてか聞いてるか?兄ちゃん、先生と最近仲良さそうじゃないか。』
(若者はいいなぁと気楽な魚屋の店主。男色はさして珍しくないため其処に驚きはしないものの『もったいないよなぁ。そうだ、兄ちゃん、うちの娘と見合いでもどうだ?孤児荘の子供たちは毎日魚食べ放題だぞ。』と冗談のような本気の口振りで相手の肩をぼんぼん叩き。)
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