主 2023-02-11 00:33:03 |
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(寺子屋から帰宅した少年が駆け寄って来るなり、『ミケさんの事だけどね!先生が菖蒲様のお家に連れてってくれるんだって!』と嬉しそうに話して来る様子に内心胸を撫で下ろす。
しかし相手が請け負っていた依頼はどうなったのかと思えば年長の少女が先程持って来てくれた風呂敷に目をやる。
昨夜相手に借りた着物、梅雨の時期故乾くのに時間が掛かってしまった。
流石に夕飯時に持って行くのもなと思えば明日届けようと。
(子供達も床に着いた時刻。今日は依頼という依頼は入っていないが相手に惚れ込んでいる娘の母親、元い花魁から頼まれ毎をしていた為着替えを済まし外へと出向く。
己が裏での仕事を行なっている事を何となく知っている花魁は偶に依頼と称して小さな頼み事をして来ては報酬と言いつつも頼まれごとには見合わない金額を渡してくる。
毎回受け取れないと断るも、これはあくまでも依頼だと言い切られてしまい正直申し訳ない気持ちさえ湧いてくる。
今日の頼み事も些細な物で、仕立て屋に頼んでいた着物を受け取ってきて欲しいとの事。
そんな事を依頼と称して己に頼むより店の人間に頼んだ方が金もかからないという旨の本一度は断ったのだが『彼処の女主人はね、腕は確かだがちょいと変わった奴というか…一癖も二癖もある様な人間でさ。誰も近付きたがらないんだ。だから爛に頼んでるんだよ。』と言い切られてしまい。
渡された地図を頼りに漸く目的の仕立て屋へと到着した所。
店の引き戸を開けるなりふと僅かに香った相手の香りに眉を顰める。
奥の部屋から出てきた店主である女は苛立たしげに帳簿に名前を書く様に命じて来て。
無言のまま花魁の名前を書けば至近距離で女主人と目が合う。
『あんた、異国の人間かい?』
「いや、…何だ唐突に。」
『面白い髪と眼をしているなと思って。丁度良い。あんたも混ざる?』
「何に。」
『頷いたら其の花魁の着物タダにしてやっても良いよ。』
(己の問いには答える事無く手招きされては訝しげに奥の部屋通される。
足を進めるに連れて濃くなる相手の香りと僅かに感じ取れる兄の香り。
開けられた襖の向こうにいたのはやけに着飾った様子の兄と相手の姿。
何故こんな所に、と疑問を覚えながらも立ち尽くしていた所、女主人は部屋の真ん中で相手達と向き合うように腰を下ろしては『待たせたね。さぁ初めてよ。』と。
状況が掴めず女主人に詰め寄ろうとすれば『まだ分からない?…あ、其れとも男相手には興奮しない質?』と聞かれ。
布の擦れ合う音がしたと同時に兄が相手の首筋に顔を埋め、やけにゆっくりとした動作で相手を押し倒す。
相手の細い手首を掴み、手の平を這わせ指を絡める。
何が起こっているのか理解などできる筈も無かった。
噛み締めた唇、僅かに血の味がする。
兄が己の死角で相手の口を手で塞ぎ『駄目だよ露草。今は俺達恋人同士なんだから。』と小さな声で言う。
相手の着物の襟首が乱れた所で居ても立ってもいられず、平静を装いながら「急いでるんだ。もう行く。」と女主人に伝える。
「ああ、さっきの質問だが俺は男もいけるよ。依頼として金を払ってくれたら何でもしてやるさ。」
(女主人は『あら残念だね。』と呟き着物の入った木箱を渡して来ては其れを受け取るなり足早に其の場を後にして。
己の身に何かあったのではと不安そうな表情を見せる様子、何かと世話をやいてくれていた事全て思い上がっていた。
激しい怒りさえ感じ早々に花街へと着物を届けては孤児荘へと戻るも眠れる筈も無く。
(翌日、少年と一緒に寺子屋へ着物を返しに行く約束をしていたものの行く気になる筈も無く、「礼を言っておいてくれ。」と少年に伝えては其の儘特に宛も無く街へと向かって。
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