主 2023-02-11 00:33:03 |
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(兄の問い掛けに答える間もなく聞こえた元気な子供たちの声。
さっぱりした笑顔の裏に何かあるのではと疑いはするも兄の依頼のことまでは知らず、相談に関しては首を縦に降るだけにして子供たちの元へ向かい。
時は過ぎて夕暮れ、兄は絵描きだけでなく教学も其れなりに出来る様で算盤や習字など子供達に教えるのを手伝ってくれ更に子供たちと打ち解けすっかり人気者。
兄が子供たちを見送る頃、学び舎の黒板を掃除していると少年、小太郎が小走りに近づいてきて。
『昨日、約束してた菖蒲様のお家の場所、教えるね。』
「ああ、ありがとう。ところで、その菖蒲様はミケさんのことをかわいがってたんだよね?」
『うん、とっても。ミケさんも菖蒲様のこと大好きだよ。』
「……そうか、じゃあやっぱり捨て猫ってのは嘘だな。」
『…?それでね。ミケさんを連れていくなら先生一人じゃないほうが良いと思う。最近、菖蒲様に近づくために男の人達が詰めかけてて警戒されてるみたいだからミケさんを連れていくにしても僕も一緒のほうが疑われないよ。』
「んー、頼もしい申し出だけど子供を夜に出歩かせる訳にはいかないよ。」
『それなら俺の出番だね。』
(少年が描いてくれた“菖蒲様のお家”の地図から視線を上げてその小さな頭を撫でてやっていれば、いつから話を聞いていたのか横からひょっこり兄が顔を出す。
『その地図の場所なら俺も知ってるし男二人でも男色でーすって雰囲気出せばいいだけだしさ。』
「いや、其れはどうなんだ…。」
『でも小太郎くんに危険なことさせるわけにはいかないでしょ?すんなり依頼を終わらせるためだよ、露草。』
「…なんかあんたに其の名前で呼ばれるのはむず痒い。」
『なになに春の予感?』
(巫山戯る兄を煙たげに目を細めて見つつも提案は正直有り難い。
男色の演技をするかは兎も角、少年に礼を告げ孤児荘の子供たちと一緒に帰るよう言い其の背中を見送って。
兄と二人になり三毛猫がごはんを食べるのを見守りながら依頼のことを軽く話す。
『なるほどねー、確かにこの模様は珍しい。…捨て猫だって嘘を付いた其の御婦人、噂だけど気に入った獣の皮を剥いで着物にするらしい。』
「…毛皮か。良い気はしないな。」
『で、どうするの?』
「三毛猫は元の飼い主の元へ返す。…御婦人が黙ってないだろうから三毛猫がどうでもよくなるくらいお眼鏡に叶う代わりになるものを仕立てられたらいいんだが…。」
『ほうほう、其れなら良い仕立て屋を知ってる。ちょっと変わり者だけど腕は確かだし御婦人の心を鷲掴み間違いなしだよ。』
「どれだけ顔広いんだよ。」
『其れ程でもー。で、仕立て屋に頼む条件だけどお金は勿論、もう1つ重要なことがあるんだ。』
(したり顔の兄に嫌な予感しかしなかったが、其の後に続いた言葉に呆然とする。
其の条件とは“男色を見せるつけること”。因みに仕立て屋は女である。そう云う癖らしい。
兄曰く『どうせ男色のフリして菖蒲様の御屋敷に行く訳だしその延長戦だと思えばいいじゃん。』と何とも軽いノリ。
『演じてる間は燐って呼んでね。俺も露草って呼ぶから。』
(兄は此の仕事が上手く行けば御婦人も満足して今自身が担っている依頼も飛ぶし丁度良いくらいに思っており楽しげで、段取りが決まるやいなや『どうせなら二人共御洒落な恰好して行こう。露草に似合いそう着物も持ってきたんだ。』と言ってどこからとも無く着物を取り出してくる。
実は此の一連の流れを予測していたのではと怪訝に思いながらも、一応は依頼。
やるからにはしっかりせねばと兄が用意してくれた着物と羽織を身に纏うとひとまず三毛猫を飼い主である菖蒲の元へ返すために屋敷に向かう。
日も暮れた夜道、肩が触れ合う距離を歩く兄に人通りが少ないとはいえ何とも気まずい。
『露草ー、顔が険しいよ。そんなんだと怪しまれるって。笑顔ー。仕事だよ、仕事。』
「……分かってる、燐。…俺のところばかり来て弟のところには行かないのか?」
『えー、何。名前呼んでくれたと思ったらそんな話?だって、歓迎されないでしょ。』
(態とらしく口を尖らせる兄にグッと腕を組まれ、風呂敷の中に抱える三毛猫が落ちないように歩みを進めながら頭の中では昨日相手が見せた悪戯な表情や、髪に触れてきた手の感触やらを思い返していて。)
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