主 2023-02-11 00:33:03 |
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( 隣町へ向かう道中、三毛猫がもぞもぞと動いて落ち着かなく爪研ぎをさせたり水を飲ませたり立ち止まることも多く進みが遅れていて。
其れにしてもだ。此の三毛猫、毛並みの色艶も良く爪先までしっかり手入れされて首に付いている鈴も高値のもの。
今更だが本当に捨て猫なのかと疑念が深まる。
ともあれ受取人を見て判断しようと隣町へと繋がれる橋へ差し掛かったところ『せんせー!』とつい昼間聞いたような子供の声が背後から聞こえて足を止め。
一応姿は寺子屋時とは変えている。
パッと見て子供が分かるものなのかとゆっくりと振り返り視線を其方へやれば“小太郎”と呼ばれていた少年が銀色の毛の猫を抱えて駆け寄ってくるではないか。
『よかった。見つけた。匂いで分かった。…先生、すぐ来て。』
「小太郎君…?こんなところまでどうしたんだ。一人で来たの?その猫は…、」
『あ、ミケさん!』
「この三毛猫のこと知ってるの…?」
『知ってる。…菖蒲様の猫。』
「やっぱり、何か事情がありそうだな。…それで態々こんなところまで俺を追いかけてきて何があったんだ。」
『そうだった。爛!…爛が大変。』
「…!? 彼奴が?どうしたんだ!?何があった?!」
( まだ頭の整理が付かぬ内に相手の危機を聞けば、当人が目の前に居るとは知らずに瞠目し焦燥を隠しきれず。状況は読めないが急を要するのだろう。
三毛猫も何か裏がありそうなため此の儘受取人に渡すのは保留にしようと一旦気持ちを落ち着けて少年と共に来た道を戻りがてら事情を聞こうとした時、
『おい、其処の。もしかすると猫を届けにきた者か?約束の時間になっても来ないから此処まで来てみたが、何をしている。』
( そう話しかけてきたのは黒い着物の男。恐らく依頼人の使い手。
面倒だなと心中悪態を吐き「すまないが此方のお偉いさんからのご達しで状況が変わった。この件は持ち越させて貰う。」と適当に嘘を吐き、男の制止も聞かずに少年の手を取ると隣町を背に来た道を引き返して。
其の儘寺子屋まで戻っても良かったが追っ手が来ることを考え道中にあった暫く使用されてなさそうな小屋に身を潜めることに。
少々ホコリ臭く狭いが仕方がない。
小さな木箱の砂埃を手で払うと少年を其処に座らせて己は正面に座り肩から掛けていた三毛猫が入った風呂敷を下ろす。
スッと体が軽くなるのを感じ呑気に伸びをする三毛猫を横目に焦る気持ちを抑え少年を見て
「それで、爛に…彼奴になにがあったのか教えてくれる?」
『えっと…僕のせいで…猫に、…急ぎじゃない。』
「猫に…?猫と何かあったの?」
『…ううん。猫になったの。』
「…え?」
( 急ぎではない。と聞いてひとまず安堵し、少年の辿々しい言葉を慎重に聞くも次に出た言葉に再び思考は停止。
少年は先程から抱えていた銀色の綺麗な毛並みをした猫を地面に下ろして。
よくよく見れば相手と同じ紅い瞳、毛で見づらいが傷があるようにも見える。
まさかと思い銀色の猫を凝視する。
太っちょの三毛猫が銀色の猫(相手)に興味を示して体を擦り寄せるのを見て押し潰されそうだと思考が現実逃避しそうになり眉間を軽く指で押さえて。
「…あー、この猫が彼奴ってことか?」
( 少年に最終確認を取りながら半信半疑で相手に手を伸ばし、そっと触れて頭を撫でたあと顎下を擽ってみたりして。)
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