主 2023-02-11 00:33:03 |
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(夜、少年に抱き抱えられ目的の場所へと向かっていた所。
この姿になってまだそんなに経ってはいないものの何とも不便で仕方が無かった。
裏通りにぽつんとある一軒家の前で足を止めた少年は玄関を叩き『おじさん!開けて!』と声を上げる。
中から出て来たのは寝巻き姿の老人、眠そうに目を擦りながら玄関を開けて来るなり少年の姿を見つめては嬉しそうに表情を綻ばせる。
『おぉ!お前猫太郎か!大きくなったなぁ気付かなかった!』
(ここまでの道中の少年の話をふと思い出す。
少年は孤児荘へ来る前は野良猫と遊んでいる事が多かった為、『おやつをくれるおじさんがいるんだよ!』『縁側でお昼寝もさせてくれるし冬には囲炉裏のある部屋に入れてくれるの!』と言う野良猫達の話に釣られてやって来たのが最初の事。
猫をいつも引き連れている事と何処と無く猫に似ているからと言う理由で付けられた呼び名が“猫太郎”であった。
『こんな時間に何をしているんだ。取り敢えず入りなさい。』
(中へと通されご丁寧に己の分の座布団まで用意されれば言葉にならない鳴き声で礼を言い腰を下ろす。
『おじさん、前に昔話してくれたよね。誰でも猫にしちゃう不思議な力を持った少年の話。…確か、最後に悪い子供を捕まえて猫にしちゃうお話だったよね。』
『そうだが…何だ。こんな時間に昔話を聞きに来たのかい?』
『どうしても知りたい事があって…。その悪い子供は其の後どうなったの?誰でも猫にしちゃって、それで、戻せないままなのかな。』
(鬼気迫る少年の表情に老人は小さな咳払いをしては近くの襖から巻物を持って来るなり其れを広げて少年へと見せる。
『…少年に、言っちゃ駄目だと言われているんだ。』
『!!!…会った事、あるの?』
『こんな嘘臭い昔話を熱心に聞いているのはお前さんくらいだったからなぁ。仕方無い、特別に教えてやろう。だが誰にも言ってはならない。これは約束だ。』
『分かった!!!絶対に守るよ。』
『簡単な事なんだ。昔話の少年は盗みを働く悪い子供を転ばせて、其の拍子に猫にした。戻したい時は同じ容量で転ばせる。其れだけだ。』
(どこか懐かしむ様な表情で語る老人に少年は目を見開く。老人の前である事も構わず、己に振り返れば『寺子屋の池だ!』と叫んで来て。
『先生に、話してくる!池で遊びたいって!』
(突拍子も無い事を言い勢い良く飛び出して行った少年を慌てて追いかけようとすれば老人に抱き抱えられ何事かと振り向く。
『珍しい毛の色。紅い瞳。…お前さんは随分と“孤児荘の兄さん”に似ているね。いや、何も言わなくて良い。猫太郎にも何も聞かないさ。ただ、あの子を大切にしてやってくれ。親も兄弟もいない中、一人で生きて来たんだ。何度うちの子になるかと聞いても断られた。“お礼を返せないから”だそうだ。』
「………。」
『昔、儂は盗人でね。“不思議な力を持った少年”にお灸を据えられたのさ。………猫太郎に良く似た少年だ。まさか、とは思った。でも………、いや、良い。寺子屋へと向かうのかい?其の小さな足では遠いだろう。途中まで連れて行こう。』
(優し気な瞳が僅かに潤んでいた。
老人は玄関へと向かうと草履を履き、己を抱えたまま寺子屋へと向かって。
(其の頃、一足先に寺子屋へと到着した少年は扉を叩くも人がいる気配は無く肩を落とす。
後から追ってきた老人の腕の中の己を受け取っては老人に深々と頭を下げて、何か言いたげな様子の老人は何も言わず優しい笑顔のまま自宅へと戻って行って。
『“先生、いないみたい。…ああもう、池だったらどこでも良いのかなぁ…。でも風邪を引いたら大変だし確実を狙いたいよね。猫は風邪ひいたらすぐ大変になるから。”』
(大人しく明日伺おうと言おうとしたものの、少年が顔をふと上げてはすんすんと鼻を鳴らす。
『“本当に微かにだけど、先生の匂いがする。多分でしか無いけど、寺子屋を出たのはついさっきなのかも。匂いが消える前に追いかけよう!”』
(己の返事を聞く様子も無く走り出した少年は隣町へと繋がれる橋方面へと全速力で走り出して。
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