主 2023-02-11 00:33:03 |
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( 子供たちも兄も帰宅した頃、相手の身に起きた奇妙な出来事は知らず、己は自室にて机の前に座り嘆息を零す。
其の手には少し皺の寄った己が描いた絵。相手が欲しいを言ってくれたもの。
結局渡せなかったしこんな奇っ怪な絵を渡すのも恥ずかしい。
其れでも捨てずにいるのに奇っ怪なのは絵だけではないようで、また一つ息を吐き出すと絵を机の引き出しの中へ仕舞って今宵の依頼のため支度を始めて。
( その頃、少年と猫になった相手…少年は相手を両手で抱えたまま孤児荘の外へ出る。
年長の子供には『爛、急な用事で出かけた。おやすみは出来ないかもって言ってた。僕も一緒に行ってくる。』と大雑把な理由を付け相手を追いかけるフリをしてきた。
夜の静かな時間、家屋が並ぶ道をやや早歩きで進みながら少年は俯き気味に話し出す。
『“ 嫌われるの嫌だから黙ってたけど、僕生まれた時から猫の言葉が分かるんだ。それにそのつもりはないのに今みたいに人を猫にしちゃう。前にも友だちを猫にしちゃって…大騒ぎになって…みんなの目が怖かった。 ”』
( 人間の言葉よりも幾分滑らかに話すも声は震えている。
相手をきゅっと抱えて『 “ 此処を真っ直ぐ行ったところに色んなことを知ってる猫おじさんが居るんだ。昔話も沢山知ってておじさんに聞けば爛を元に戻す方法を何か分かるかも。”……あれ、此れなんだろう。”』と目的地を伝えていると少年の足元に一枚の紙が。
『“ ね、ね猫探し…?み、み…だめだ、読めないや。あ!…僕この三毛猫さん知ってる。大きい家の菖蒲(アヤメ)様って呼ばれてる女の子が可愛がってるミケさんだよ。ほら、頭のてっぺんにお花みたいな斑があるから分かった。迷子になっちゃったのかな。”』
( そう其の紙は相手が昼間受け取ったものと内容が同じもの。少年は字は全て読めなかったが、三毛猫の絵を見て分かったようで。
此の依頼の紙、此の辺りでも大金持ちの一人娘が出したもの。
可愛がっていた三毛猫が居なくなり、両親に叱られるのを恐れた娘は一人で何とかしようと何枚も捜索願の紙を書き、風のうわさで相手のことを聞いて万屋とでも勘違いしたのか飛脚に頼んで相手の元へ此の紙を渡すよう頼んだのが事のあらまし。
『“ 探して上げたいけど…先におじさんのところに行ってみよう。ミケさんのことも知ってるかも。”』
( 少年は紙を懐にしまうと相手の頭を撫でて猫おじさんと呼ばれる男の住まいへ足を進めて。
( その頃、己は依頼のため奇しくも件の三毛猫、ミケさんを目の前にしており。
場所は町外れの家屋、組織の男が鈴の付いた大人しく香箱座りをする三毛猫を指さして
『此の猫を隣町の御婦人の元へ内密に届けろ。』
「…猫を?鈴がついてるから誰かの猫じゃないのか。」
『捨て猫だ。其れを偶然御婦人が見かけて此の猫の模様を気に入ったらしい。報酬は弾む。簡単だろ。』
「捨て猫なら内密に届ける必要はないだろ。」
『御婦人は金持ちだから捨て猫を拾ったとなれば世間体が悪いんだろ。』
( やや怪訝に眉を潜めるも男の嘘を信じ、三毛猫が一人娘の元から盗まれたとは知らずに「分かった。」と頷いて。
少々、否かなりぼてっとした三毛猫。はみ出た肉が畳に広がっているのが愛らしいが…「…重、」と抱える際に思わず声が漏れる。
りん、と鈴の音が鳴るのが気掛かりで外そうとしたが三毛猫が嫌がったので其の儘にし、大きめの風呂敷で猫を隠して負担にならないように抱え直すと家屋を出る。
隣町迄は少し距離があるため此の重たさだと肩が凝りそうだと少々気が滅入りつつ、大人しくしてくれている三毛猫の頭を撫でて「…花の模様みたいだな。」と頭のてっぺんの模様を見て己の描く花より綺麗なんて思いながら足を進めて。)
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