主 2023-02-11 00:33:03 |
通報 |
_牡丹?
( 相手が去ったあと訝しげに眉を寄せて一人ぼやく。
此方を何処か探るような物言いとなにやら鼻につく言葉と表情。始めは何のことかと思ったが、ふと昨夜赤い鉄の異臭が立ち込める匂いの中に香った牡丹の匂いを思い出す。異臭の中でも強く香ったのでその時はやけに強く香るものだと引っ掛かりはしたが、今朝方には気にも留めていなかった。
まさかその匂いに気付いたか。だとすれば相当鼻が利く。
顔立ちも良く優れた嗅覚、もし同じ密売人ならたんまり稼げるに違いない。
ただあの言い方は少々気に食わない。まだ己より年下だろうに可愛くない、と相手と昨夜のことは特に結びつかず、そう会うこともないだろうと気にしないことにして。
『せんせー、おはよー。』
「ああ、おはよう。…あ、その花の髪飾り綺麗だね。」
『うん!お母さんがね、使えなくなった手拭いで作ってくれたの。』
「それは良い。…ところで先生、なにか匂うかな?」
『えー?んー、何も匂わないよ?』
(手を振り寺子屋にやってきた少女の視線に合わせて身を屈めて話し一応匂いについて聞いてみるも少女は首を捻る。
子どもたちが分からないのならいいかと呑気に思いつつちらほらとやってくる子どもたちを出迎え寺子屋の中へと入っていき。
( 時は其の日の晩、仮眠を取り向かうは夜の仕事。
昨晩は思わぬ損失を被ったため今宵は失態を繰り返せない。なのに今宵の依頼もどうやらまたあの貴人が関わっているらしい。その内容は阿片を買い取る男の代わりに密輸場へ出向き阿片を手に入れるというもの。何でも依頼主である男は役所の人間。当然役所の人間が阿片に手を出しているなんて知られる訳にはいかない。素性を明かせぬ男の代わりに己が密売人として密輸場へ行くことになっていて。
まだ来てないか…。
( 密輸場である街中の飲み屋へ来れば迷わず奥の部屋へ足を向ける。襖を後手に閉じ、しんとした室内を見回しては一人呟きひとまず部屋の真ん中に置かれた木彫りの机の下手に座り。顔半分を隠す黒い布を目元まで上げ直しつつ、さっさと終わらせて帰ろうと売人が来るのを待って。)
トピック検索 |