主 2023-02-11 00:33:03 |
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(相手に渡された風呂敷袋を受け取ると「ありがたく頂くよ」と読めない表情のまま礼を言う。
風呂敷袋を受け取る際に更に色濃く香った香の匂い。
自身は相手と向き合ってからはまだ一歩も動いていない。
目の前の、優しげな雰囲気を纏いながら悪戯っぽく微笑む相手に、心情まさかなと思いつつも「…あんたは牡丹の花が好きなのか?」と問う。
今や牡丹の花の香りは花街を中心に江戸中を魅了している為珍しい香りでは無い。
しかし昨夜の屋敷に立ち込めていた香の香りは花街で使われている香と比べて遥かに上等な物で、その香りの強さは別格だった。
寺子屋の先生ともあろう相手が花街に入り浸っている姿など到底想像も付かない上に、相手ほどの容姿の持ち主であれば金なぞ払わずとも女は選び放題だろう。
常日頃の疑い癖が悪く出たなと反省する。
_いや、悪い。僅かにあんたから牡丹の香りがしたんでな。誰かと擦れ違った時にでも付いたんだろうよ。
(言葉では謝ってこそいる物のまるで相手が花街にでもいたかの様な事を匂わせる様に「男同士と言えど野暮な事を聞いたな。悪かったよ。」と人の悪い表情で口角を上げる。
風呂敷袋をひらりと軽く掲げ「ご馳走さん」と言うと今度こそ裾を翻し寺子屋を後にして。
(孤児荘にて、縁側に座り込み煙管を燻らしていると先程の相手の事が不意に頭に浮かんだ。
見目は、美しいという表現がぴったりなのだが何処と無く怪しげな雰囲気があって。
そんな事を考えていれば玄関先に黒い着物に身を包んだ男が立っているのに気が付き其方へと向かう。
『昨夜の報酬だ。』と投げ渡されたのは布に包まれた小判が十両ほど。
それと共に一枚の紙を渡される。
『昨夜の貴人はお前を大層気に入っていたぞ。なんせ令嬢に傷一つ付けずにご丁寧に気絶させて連れ戻したんだ。今夜もお前に仕事を頼みたいとの事だ。』
紙の内容を読めば昨夜の貴人が裏で売り捌いている阿片の密輸場の護衛だった。
_こりゃ確かに町奉公にも頼めねぇってこった。
(下らなそうに呟くと男は何も言わずに其の場を後にして。
面倒だが金の為。
縁側に戻ると昼寝から起床した幼い少年が目を擦りながら自分の膝の上によじ登って来て。
思い出した様に相手に貰った団子を一本やると「兄ちゃんや姉ちゃんには言うなよ。」と。
こく、と頷き嬉しそうに団子を頬張る少年を膝に乗せたまま、頭の中では今宵の依頼の策を練っていて。
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