主 2023-02-11 00:33:03 |
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(従者に扮した相手に気付いたのは相手が部屋に入って直ぐの事。
最早嗅ぎ慣れた相手の匂いに視線だけを其方にやり小さく頷く、…がしかし、相手は一体どう此処を切り抜けるつもりなのか皆目見当も付かない。
兎にも角にも相手が作ってくれた隙を逃す訳には行かない。
花魁と娘を追い出すかの如く共に部屋を出ては花魁が困ったように己を見上げて来ては『御前さんには、驚かされてばっかりだね。』と。
花魁に案内され、屋敷から直通でもある通路を通り花街へと出れば娘を花魁に預け己は屋敷へと戻ろうと。
『待って。…先生は?』
「彼奴なら、大丈夫だ。今から迎えに行く。だからあんたは大人しく母親と、」
『私に母親なんていない!!!勝手に連れて来られて、…こんな場所に置いていくなんて本当に最低よ!!!』
喚く娘の腕を強く掴んだ花魁は瞳に涙を溜めながら厳しい表情で娘を見詰め、『大きな声を出すんじゃないよ。逃してくれたんだよ。もう分かってるだろ?』と諭すような口調で言う。
『御前が出来て、どうしたら良いか分からなかった。ずっと放って置いたんだ。恨まれても仕方ない。でも、この守り方しか出来なかったんだ。』
花魁の言葉の語尾に力が籠っており、娘は静かに黙っては唇を噛み締めたまま静かに涙を溢す。
『さあ行ってくれ。足止めして悪かったよ。“娘”が惚れ込んだ男の顔、見てみたいんだ。…ちゃんと無事に連れて来ておくれよ。』
『ちょっと!!!』
『今更何だい。御前の反応見てたら“先生”とやらが御前の想い人だなんてあっさり分かったよ。さあ行こう千代。まずは身を隠さないと。………爛、ゆっくりで良いから帰って来て。店で待ってる。』
(優しく微笑む花魁の表情は穏やかな物で、花魁に手を引かれる娘にももう抵抗の様子は無く。
走り去っていく二人を見送ってはさっさと今来た道を戻り。
(自分が去って直ぐの事、一向に現れない“客人”に痺れを切らした大名は従者二人を呼び付け相手を押さえ付けては顔の布を強引に剥ぎ取り、其の正体に目を見開く。
しかし大名からすれば相手の存在は疎ましいものではなく、ふ、と息をつき先ほどの嫌らしい笑みを浮かべれば相手の頬を撫でる。
『誰かと思えば。…まぁ良い。客人は御前のはったりだろう。そんなに俺があの女どもと馴れ合っているんが嫌だったのか。』
清々しいまでの勘違いをひけらかし相手の正面に腰を下ろすも、相手の解放とまでは許さず従者は相手を抑え付けたままで。
『良い良い。御前の気持ちは分かってる。交換条件にしよう。御前が大人しく俺の元に来ればあの女どもには今後一切手出しはしない。花魁も所詮もう年増女よ。御前が望むのなら花魁から金を巻き上げるのもしないさ。俺とあの女に接点があるのは嫌だろう。』
相手の気持ちが完全に自分の物になってない事を知ってか知らずか、大名は何とも都合の良い条件ばかり提示して来て。
(其の頃、漸く部屋まで辿り着き内部の様子を確認していた己は大名の其の言葉一つ一つに全身の血が逆流したかの様な感覚を覚え襖に手を掛ける。
しかし、なぜこんな感覚になるんだと疑問を感じては襖に掛けた手をぴくりと止めて。
よく分からない、が、相手に馴れ馴れしく触れている其の行為が酷く許せない。
相手の能力に関して己は全く知らない。
…が故に、僅かに緩んだ従者の腕から解放された相手の細腕が大名に伸ばされて行く瞬間が目に入っては、相手が大名の条件を受け入れた物だと思い音を立てて襖を開けて。
『…御前は、』
大名の言葉など耳に入らず、思考もままならないまま、ただ“嫌だ”という感情に支配されては呼吸すら整えない状態でゆっくりと刀を抜いて。
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