主 2023-02-11 00:33:03 |
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_全く不本意だが便利だな…。
( 相手が娘を抱えて颯爽とした身のこなしで去った後、当然男達は激昂しその後を追おうとした。
然し、己の能力により報奨金のことは偽りだと思い込みお家に帰って貰ったところ。
代償があり欠陥があるとはいえ世を統べるのに便利過ぎる能力。
便利過ぎるが故に一人の男を狂わせた。
_『御前のせいで__母さんは死んだんだぞ!』
_『何故躊躇う。金が必要なんだよ!!』
脳裏に過る一度消えた過去の記憶。
己と同じ藍色の髪に目元が良く似た男が疲弊した顔で怒号を飛ばす。
少し感傷的になり嘲笑と共に一人ごちれば緩く首を横に振って拳をそっと握る。
相手が去り際に残した、たった一言。
“怪我をするな”と。
その一言で何故か心が震え、鼓舞させた。
今更だが依頼でもなく金にもならない案件に首を突っ込みすぎではと思うも本当に今更過ぎるため、相手に加勢すべく夜の街を走って。
( 一方大名の屋敷、大名は相手の機転を働かせた行動に顔を赤くして息を荒げており。
『御前、何様だ!交渉も何も儂の娘なのだから自由に扱って何が悪い。娘を此方に渡せ。何、悪いようにはしない。部屋は今住んでいる家の何十倍の広さ、金にだって困らない。身の回りの世話も全部使いの者がやってくれる。』
『そんなのいらない!私は今の暮らしがいいの!』
『その頑固な所、母親にそっくりだな。千早、この小娘が実の娘だと認めて二人共儂の元に来れば何も言うことはない。御前もいつまでも鳥籠の中では窮屈だろう。』
( 大名は下衆な笑みを浮かべて花魁と娘を交互に見る。
勿論傍に置くだけなんてことはなく、二人の美しさや人脈を利用するだけ利用するつもり。
大名にとって二人は道具でしかなく。
と、張り詰めた空気の中、静かに開く襖。
入ってきたのは従者で何を隠そう此の従者の正体は己である。
宣言通り隠れて屋敷の中へ侵入し、途中からではあるが大方会話を聞いていた。
大名との話し合いよりも一時花魁と娘を話し合わせたほうが良策に思え、一旦その場を離れ裏手口にいた見張り役を気絶させて着物を拝借し、髪は布で隠して軽く変装した次第。
顔は知れている為、直ぐ気付かれる危険性はあるが相手も居るし何とかなるだろうと。
『なんだこんな時に!この状況がわからんのか!』
「ご尤もで御座います。立ち入っているところ誠に申し訳ございません。ですが、大切なご来客が、」
『なんだと?こんな時間に無礼な!大切なのは今だ。こんな時に客人を通すなど御前もどうかしている!』
( 苛立つ大名に臆せず傍によればそっと耳打ちを。
その客人は大名よりも偉い地位の名前。
当然此の場凌ぎの嘘のためこの後は適当に話を合わせとんずらするつもり。
「…ですから今は千早様にもお帰りになって頂いたほうがいいかと、」
( 駆虫を噛み潰したような顔をする大名、然し自身よりも地位が高い客人を放っておく訳にはいかないだろう。
変装は簡易的なもの、相手にはバレているだろうと踏んでさっさと娘と花魁と共に此の場から離れるよう目配せして。 )
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