主 2023-02-11 00:33:03 |
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(翌朝、子供達といつも通り朝餉を済ませては自室へと籠り例の畳をじっと見詰める。
子供達には仕事をするから暫く部屋に来てはいけない事を伝えており、今夜相手にも見せる事になるであろう木箱の中を先に確認しておこうと。
畳を剥がし、埃と黴の混ざった匂いに眉を寄せながら木箱を開け、ぼろぼろになった文を一枚取る。
内容は全てにおいて完結的な物だった。
『-今夜真夜九つ-』
『-明日昼四つ、寺子屋の住まいにて-』
恐らく会う為の約束だろうと思しき文ばかり。
特に物珍しい物は無いかと文の山をざっくりと持ち上げた其の時、小さな木箱が目に入り手に取る。
木箱を開ければ僅かに劣化こそしている物の高価な物と思われる簪。
菊の花の飾りが誂えてある其れには錆びた血の様な物がこびり付いていて。
多少劣化している物の手入れに出せば光沢を取り戻せそうな代物。
何故ここに簪があるのかと暫し頭を悩ませるも思い浮かぶのは記憶の中の、相手によく似た長髪の男。
畳を戻し、大名の娘とやらの偵察がてら先に街へと向かっては老舗の簪屋へと向かって。
(簪屋に着くなり古びた木箱を店主に渡せば店主は丸眼鏡をくいっと上げ、驚いた様な顔をして。
『お兄さん、此れはあんたが持ってたのかい?驚いた。此れは俺の先祖が作った物だよ。間違いない。なんせこの細かい細工を作れたのはあの人しかいない。爺さんも、父さんも、俺も。作れないんだ。』
「…其れ、磨けるか。使えるくらいに。」
『嗚呼。それくらいはできるが、作りが本当に細かいんだ。少し時間をくれないか。…そうだな、折角巡り会えたんだ。今日は店終いにして此奴を生き返らせてやるよ。夜にまた取りに来てくれるか?』
「分かった。」
何故「使えるくらいに。」などと言ったのかは自分自身も分からなかったが、不思議とそうしてやらなければならない気がして。
暖簾を下げる店主に軽く会釈しては其の儘寺子屋へと向かって。
(寺子屋へと到着すれば庭で遊ぶ子供達の中に、自分とそう歳の変わらないであろう女子が一人混じっていて。
あっさり見付ける事ができた物の大名があの娘をどうするつもりなのか分からない今、動く気にもなれない。
頭を悩ませていた所、中から相手が出てくるのが見え咄嗟に門の影に身を潜める。
『今日はお天気が良いわね!菊先生もこっちに来て!』
『次はお姉ちゃんが鬼だよー!』
大名の娘とは到底思えない程のお転婆な様子。
着物の裾を翻し楽しそうに走り回る娘が躓き、咄嗟に相手の胸の中に倒れ込むのを見掛けては何故か鼓動が騒ぐ。
『あ、ご、ごめんなさい。』
髪を耳に掛けながら顔を赤らめ俯く娘に優しく微笑む相手の姿に居ても立っても居られなくなり足早にその場を後にしては原因不明の苛立ちに苛まれて。
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