主 2023-02-11 00:33:03 |
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(警戒心を持ちながら相手の自宅へと上がり部屋へ通されると、相手が刀を置くのが目に入り自分も刀に添えていた手をそっと離せば表情は変えぬまま相手の顔をじっと見詰める。
まだ相手と出会ってそう経っていない、其れなのに相手が嘘を吐いている様には伺えずに差し出された茶を一口飲む。
続く相手の問い掛けの内容は自分もずっと気になっていた事。
まさか相手も同じ様な出来事に合っていたのかという僅かな疑問に眉を寄せては漸く口を開く。
_今更名乗るのもおかしいが、俺の名前は霧ヶ崎爛だ。…名乗るのは初めてだが、あんたも知っているんだろ。俺もあんたの名前を知っている。
(無表情のまま淡々と答えればゆっくりと此れまでの事を話し始め僅かに眉を寄せる。
「俺にも良く分からないんだが、時折激しい頭痛に襲われる。ご先祖様やら何やらだか知らないが俺が知ってる身内なんて金の亡者みたいな父親と早くに死んじまった母親だけだ。母親なんて顔も覚えてない。俺とあんたに何を伝えたいのか知らないが…所詮過去の人間に振り回されるのは御免だ。…あんたもそうだろ。実際俺を気にかけてあんたも大変な目にあった訳だ。」
大名に囚われた時の事を思い出し視線を下げたまま言えば茶を飲み干す。
「誤解があった事は分かった。俺も言いすぎた。そこは悪かったよ。」
小さな声で謝罪を述べ部屋を後にしては何だか切ない気持ちに心を掻き乱される。
門へと続く庭を通り過ぎようとした際、最早慣れたあの頭痛。
(大きな松の木の下にいるのは相手と、相手に良く似た容姿の女。
これまで顔がぼやけてはっきり見えなかったが今ははっきり顔が見え、長髪の男はやはり相手と瓜二つで。
『兄さん、いつまでも自分を誤魔化さないで。ちゃんと、爛さんに…』
女の言葉を遮るように首を振る相手の姿。
其の表情は切なそうで苦しそうで、_何故か胸の奥が痛んだ。
(頭痛が治まり、玄関口から此方に向かってくる相手のじっと見詰めては「あんた姉か妹がいるのか?」と一言問い掛ける。
何度も脳裏に浮かぶ記憶を何となく思い返せば、自分と思しき銀髪の男はいつも相手を想って苦しんでいた。
___まるで相手に先立たれてしまったかの様に。
きっと相手からの手紙も捨てられなかったのだろう。
大きな溜息を一つ溢し相手に近付けば一応周りに警戒しながら、「明日の夜、俺の家に来い。気になるものがあるんだ。」と簡潔的に言い。
(寺子屋を後にし孤児荘へと辿り着けば玄関口には黒服の男の姿。
「こんな時間にご苦労なこった。」
『今回の依頼だ。前回御前が囚われた大名の娘を探して来いとの事だ。』
「攫われちまった事も広まってんだな。怖いもんだぜ。それにしてもあのおっさん娘がいたのか。」
『遊女が孕んだ子供がいるらしい。年齢は御前とそう変わらんくらいだろう。寺子屋の男に惚れ込んでるらしく、今は町娘としてたまに手伝いに行ってる女だという所までは目星がついてる。』
「其処まで分かってんのなら自分で行けよ。」
『あくまでも依頼だ。其の娘をどうするのかまでは此方も聞いていないんだ。』
「女子供を悲惨な目に合わせる様な依頼だけは御免だぜ。」
男から依頼の紙を受け取ればすぐに燃やし、信用しきった訳ではないが寺子屋に入り浸っている情報があるのなら明日相手にも話さなければならないな、と。
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