主 2023-02-11 00:33:03 |
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( 時は夕刻、寺子屋の子どもたちが皆家路に付いた時間、寺子屋の門の前で最後の子どもが母親に手を引かれて帰るのを手を振って見送っていれば、その時を見計らったように組織からの文が届く。
その思わしくない内容に眉を寄せる。相手とは仲が良い訳ではなく友人でもない。下手をすれば対峙する仲。だが、どうにも相手をダシに使ったり売るような真似はしたくない。それに一体なんの噂だと言うのか。真相を確かめしっかりと断りを入れる必要があると考えて。まだ時刻は夕刻の七つ半、今夜は依頼もなく相手との約束の時間まで十分時間はある。
徐に帳簿を取り出して開いては朝方相手と交わした約束を記した一文を指先で辿る。
相手の言葉で記憶こそ思い出すことは出来なかったが気が付いたのだ。
相手と交わし、己が忘れてしまった約束。
__あの丘で会うこと。次は忘れない。
己自身、相手とはしっかりと話したかったため、心の中で復唱し刻み込む。
“次は忘れるな。”と言ってくれた相手の言葉が何故か胸奥を燻って、無意識に頬を緩めてさっさと文の件を片付けようと一旦住まいに戻って。
その様子を監視する影が一つ、その人物は噂を流した従者で己と相手を朝方から見張っており朝に交わした丘での約束のことも聞いていて。
( 相手が令嬢と共にいる時間、己は組織の元へ来て嫌でも例の噂を耳にする。全く根も葉もない噂は不機嫌なもので、一室にて依頼の断りをいれたところ。当然組織の男は良い顔をせずに。
『何故断る。そんなにあの男に入れ込んでいるのか?金は弾むと言っているだろう。』
「だから入れ込んではいないし、あの男は誰にも懐かない。他の仕事なら安くていいからいくらでもやるよ。」
『御前に断る権利があると思っているのか?』
「ないだろうな。ただ俺はあの男を利用しようとすれば手に負えずに危害のが大きくなると忠告しているんだ。組織のために断ってる。」
『…其れが本心だったとしても奴に近づいて信頼を得ておくことに損はない。気を許したところで此方に引き込めば良い手駒になるだろ。』
( 口角を上げる男に其れだと始め言っていることを変わりはないだろうと言い返したくなるが、組織も中々折れてはくれない。然しひとまず依頼の件は保留となって。
組織の拠点を出ればすっかり月が登っていて今から丘へ向かえば丁度約束の時刻。
肌寒さに身を震わせつつ何となく口元を隠す布を顎下迄下げて髪も解いて下ろせば簡単に結い直して丘へと足を向けて。
( その頃丘では相手の待ち構える男が二人。それは相手の能力に興味を持っている裏組織に繋がる男たち。男たちは、従者が己と相手を仲違いさせたいが故に新たに流した噂を聞いて来たのだ。その新たな噂は“ 勿が狼男と夜九つに会う約束をし、良いものが見られるから来いと言いふらしていた。”と。
そんな真と嘘が入り混じった噂に食いついた男たちは丘へ向かい、不運にも己よりも先に相手と会ってしまう。
丘へと訪れた相手を男たちは挟むようにして囲み。
『おー、本当に来た。御前が例の化物か?』
『噂で聞いたんだよ。どこぞの組織の勿という男が御前と此処で会うと。随分良い値で情報を売っているとな。』
『御前はあれなんだろ、少し前に花街を賑わせた化物。背も高いしさぞ見栄えがいいんだろう。』
『良いものが見られると聞いたが、化けてくれるのか?それともあれか、香があったほうが化けやすいか?』
( 男達は馴れ馴れしく話しかけてきて、懐から興奮剤の入った小さな袋を取り出し相手の顔の前に突きつける。香や薬に弱いのも従者が流した噂だが、尽く出どころが己になっており。)
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