主 2023-02-11 00:33:03 |
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(まだ浅い付き合いと言えど少なくとも相手を約束を破る様な存在には思えず、自分を助けた代わりに何か暴行を受けたのでは無いかと首元や袖から覗く細い腕を見るも不審な傷や痣は無く。
無事なら良いかと思うも相手の口から出た己の名前にはっとしては相手の腕を咄嗟に掴んでしまい。
相手にはまだ名乗ってないし名前を呼ばれたのは初めての筈。
其れなのに自分の髪に触れる手の感触、名前を呼ぶ声、全てに懐かしさを感じる。
_どうせあんたは夜型の人間だろ。必ず丘に来い。真夜九つ頃だ。俺はそれまで仕事があるから終わったら真っ直ぐ行く。今回は必ず来いよ。
(令嬢が寝付くのは夜四つ頃、其れが終わったら真っ直ぐ丘へと向かいちゃんと話をしようと。
あの場所での頭痛、不思議な記憶、毎回相手に良く似た男が登場する事が気掛かりで仕方無く。
昨夜の約束を相手が能力により忘れてた事など露知らず「次は忘れるな。」と強い口調で言えば其の場を後にして。
(子供達が寝静まった後、貴人宅へと向かい令嬢の部屋へと訪れる。
『昨日来なかった事は許してないけど、それなりに心配してたのよ。』
「此の通り無事だ。心配掛けて悪かったよ。…其れにしてもあんたは香が好きなのか?」
『と、殿方を部屋に呼ぶのに多少の礼儀というか、…』
口を吃らせる令嬢に、所詮遊女の真似事かと。
「実は香の匂いがあまり好きじゃ無いんだ。あんた自身の香りが掻き消されちまうし、」
『わ、分かったわ。次からは…何もしないで待ってる。』
前回にように手を握ったまま令嬢が寝付くまで話を続ける。
街の様子を性懲りも無く話していた其の時、『私、本当は着物なんてどうでも良かったのよ。でも、私には友達なんて一人もいないし、お父様が下級の人間なんかと遊んだら駄目っていうから。友達と楽しそうにはしゃいでるあの子供が羨ましくて…、つい、叩いてしまって。』と本音を溢し始めて。
自分も僅かばかり表情を和らげては「ならまずは素直に謝るところからだ。あんたの父親には何度か依頼を受けてるし、まぁ、娘殿に言うのもどうかと思うが其れなりの弱みは掴んでる。明日の昼にでも街に行こう。」と。
『でも私、街の人達には嫌われてるし、』
「あんたの誠意によってはどうにでもなるさ。」
令嬢は僅かに微笑むとうとうととしたまま瞳を閉じやがて寝息を立てる。
根っからの悪人では無かったかと胸を撫で下ろしては令嬢の寝顔を静かに見詰める。
恐らく年齢は相手と同じくらいだろうか、しかし安心しきった寝顔は少女のままで。
静かに其の場を後にしては颯爽と丘へと向かい。
(其の頃、相手の元には相手組織の者からの文が届いており。
“狼男と御前の噂を耳にした。手懐けた際には是非利用させて欲しい。金は弾むぞ。”
所詮従者が流した噂、相手も己も知らぬ噂が既に裏組織に飛び交っている事は互いにまだ知らずにいて。
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