主 2023-02-11 00:33:03 |
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( 華麗な身のこなしに人を言い包める饒舌な物言い、相手の後に付きその細くも凛然とした背中を見て全身が脈動する感覚を覚えた。
__己はこの背中を知っている。
すれ違い際に言われた言葉、念のために帳簿に記したいところだったが、どうやら大名は其れを許してくれないらしい。帳簿を取り出そうと懐に手を入れようとしたところで『何をする気だ!今の御前の立場をわかっているのか。怪しい動きをしてみろ。今後の対応を考えることになるぞ。』と怒鳴り散らされ。
「分かってる。裏切ったのは認める。でも安心してくれ。金を払ってくれたんだ。今の主人は貴方だよ。やっぱり大名様はすごいな。すぐに俺の望むものをくれるし、一緒にいて楽しませてくれる。…あの男に気が揺らいで悪かったよ。」
( 警戒する従者たちを他所にまるで大名しか見ていない口ぶりで妖しい雰囲気を作りながら近づき隣に座り身を寄せる。脳裏では“あの丘に行く”と忘れぬように復唱し、能力を解放する隙を窺って。
『ふん、御前の望むものは俺じゃなく金だろう。』
「金好きだからな。いくらあっても困らない。でも金で回るのが世の中だろ。…だから大金持ちの貴方は魅力的だ。此れだけ財位があるのは貴方に魅力があって其れだけ俊逸だからなんだろうな。」
『素直なのか捻くれてるのか分からないやつだな。』
( 眉を寄せながらも警戒を解いてくれた様子に全く気分の良いものではないが大名の肩に触れて「今後もよろしく頼むよ。」と笑みを向ける。その間に能力を解放し“既に相手とは金の取引は結束し今後も横暴な捕獲をしない条件をのんだ”記憶を植え付ける。本来なら辻褄合わせに従者たちの記憶を改ざんする必要があるが、大名がこうだと言えば従者たちは首を立てにふるしかないだろう。ややずさんではあるが能力の代償を考えれば仕方ない。ついでに“相手に取引済みと条件、今夜来る必要のない旨を記した文を届ける”ように仕向けさせて。
「大名様?ああ、昨日飲みすぎていたから疲れが出たんだな。ゆっくり休んでくれ。…それじゃあ俺はこれで。」
( ぼーっとする大名を介抱する素振りで横にさせては後の世話を従者たちに任せてその場を後にして。
( 日が昇る頃に家路に付き、己も能力者と言えど超人ではないので眠気は来る。
寺子屋をお手伝いの青年に任せて身体を休める間、またも浮かぶのは相手のこと。
__『爛兄さん。』確か孤児荘の子どもたちはそう呼んでいた。
“爛”…懐かしい響きに感じてあの丘のことを思い出す。
そしてあの丘もなぜか心が惹かれ落ち着く場所。
月明かり照らす大樹の下で己と相手に似た二人が立っていて、己に似た男は優しい微笑で柔らかな銀髪を撫でている。
あの丘に行かないと…。
( ふっと目を覚ました時、窓からは赤い夕暮れの光が差し込んでいて、寝過ごしたことに気が付き慌てて起き上がる。
然し、目を覚ましたときには何処かへ行くつもりだったことは薄っすら覚えているが何処へ行くつもりだったかは思い出せず。帳簿を取り出すも当然何も記されていない。
「……誰かと会うんだったか?」
( 考えても出てこずに頭を悩ませていれば『菊にぃ!まだ寝てるの?ちょっとお勉強で分からないところがあって聴きたいところがあるんだけど。』と襖の向こうから少年に声を掛けられ。
「ああ、今起きたところだよ。すぐ行くから待っててね。」
( もやつきは残るがひとまず起きようと身支度を整え始めて。)
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