主 2023-02-11 00:33:03 |
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(時刻はまだ薄暗さが残る明け方。とある貴人の令嬢が攫われたとの事で受けた依頼を容易く終えた後。自身の気に入りの場所でもある、林を抜けた先の丘の上の大木にて身体を預けその身を休ませていた。
貴人の令嬢が攫われた、などと町奉公にでも頼めば良いものを…とも思ったがどうやらこの令嬢の父親、あの手この手で地位を守る為にその手を汚く染めていたようで。
今回の依頼は令嬢を攫った者達を一人残らず抹殺し、令嬢を邸宅まで帰す事だった。
段々と空が明るくなり、煙管の煙を溶かしていく。
灰皿に灰を落としゆっくりと立ち上がり林を抜け町へと抜ける。
孤児荘の子供達はまだ寝ている時間とは言え江戸の町の朝は早い。
幸いにも今回の仕事では衣服を汚す事も無く己ながら上手い立ち回りが出来た。
(『兄さん、これ持ってお行きよ』
ふと呼び止められるといつも世話になっている八百屋の女将。
抱き抱えられた籠の中にはたくさんの野菜。
_流石に悪い。金は払わせてくれ。
(財布を取り出すも『良いんだよ!この前うちの主人が酔っ払っちまって倒れてたのを運んでくれたお礼さ。この町は栄えちゃいるが治安が悪くてね。あのままねっ転がってたら金目もん盗まれて殺されてたっておかしくなかった。だから黙って受け取ってくんな!』と強引に押し付けられ。
ありがたく受け取り「なら、何か困った事が言ってくれ」と言うと女将が嬉しそうにぱん、と手を叩く。
『それなら、寺子屋にも野菜を届けてくれないかい?うちの子供達はあそこの寺子屋に世話になってるんだけど、貧乏百姓のうちを気遣ってか金を取らないんだ。』
女将の言葉に頷き籠を受け取る。最近町でもよく耳にする寺子屋の存在は自身も知っていたし、孤児荘の子供達も何度か遊びに行っていたようで一度挨拶にでも伺わなければ、と思っていた所。
金もそれほど取らずに学問を教えるなど物好きな人間がいたものだ、心の奥底でほんの少し馬鹿にしたような考えを浮かべながら寺子屋へと向かい。
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