主 2023-02-11 00:33:03 |
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(相手と入れ替わりに近付いて来た、恐らく組織の者であろう黒服の男から渡された紙に目を通す。
裏稼業を始めて間も無くはこういった類の依頼しか入らなかったなと思い出し溜息を一つ溢す。
報酬金額はまあまあだが、きっとこの設定金額は“将軍が気に入れば”の金額なのだろう。
会計を済ませようと店主を呼ぶも会計は済んでいるとの事。
青年が『ご馳走になっちゃった!今度お礼言いに寺子屋に行ってみようかな!』と呑気に話しているのを尻目に己は颯爽と甘味処を後にして。
(時刻は夜。陽が落ちるのが早くなったと言えどまだ蒸し暑さが残っており襟首を軽く乱す。
青年は先に城へと向かっているとの事。
同行を迫って来たかと思えば『…あー、いいや。やっぱ先に行く。兄さんはゆっくり来てね!』と唐突に言って来た昼間の青年の様子をふと思い出す。
門番に話を済ませ、中へ通される。
宴会部屋と思しき大広間、豪華な襖を引けば室内は不思議と静まり返っており、将軍の正面に佇む青年が此方に振り返る。
『あ!兄さん!早かったね!』
「…、」
『それで将軍様、話を戻すね!今俺に勧めたこのお酒に入っている薬は何?依頼内容は俺達の能力で見世物だった筈。本当の目的が別にあったとか?』
「おい、何の話だ。」
『俺もさっき着いたんだけど、取り敢えずお近付きの印に一杯!ってお酒貰ったの。でも味少し変わっててさ。普通の人間なら騙せたと思うけど俺の舌は誤魔化せないよ。…うー、まだ舌がじんじんする。』
(舌を出す青年の前にある酒に鼻を寄せるも、鼻の効く己にすら異変は感じられない。
眉を寄せ、酒を口に含もうとするも青年に酒の入った盃を弾かれれば鈍い音を立てて畳に落ちる。
騒ぎ出す将軍の側近達。
刀を抜こうとする仕草に此方も身構えていた所、不意に立ち上がった将軍が青年に近付き頬を撫でる。
『毒を見抜くのは特技か?』
『特技…になったのかな?ほら、俺みたいな化け物は見世物の一環としてこう言った類の薬良く飲まされるの。だから慣れて来ちゃった。倒れる程の品じゃ無かった事を見ると、殺す気では無かったって事だよね?気でも失わせて俺達を売り捌こうとか?』
(笑顔を崩さないままつらつらと話し続ける青年に呆気に取られていた所、将軍は面白そうに口角を上げる。
『気を悪くさせて悪かったよ。次の酒にはもう薬は入っていない。安心してくれ。』
『上等な薬でしょ、これ。俺じゃ無かったら気付かなかったもん。また盛られたら怖いなぁ…。そうだ!ねぇ将軍様、可愛い俺の顔に免じてお願い聞いてよ。』
『…ほう、言ってみろ。』
『この薬を売った人、今此処で俺の目の前で始末してよ。きっと薬の効果を確かめる為に隠れてたりするよね?…俺薬だけはどうしても怖いし、もう薬を入れないとかいう口約束も嫌いなんだよね。もし俺のお願い聞いてくれたらたんまりご奉仕するよ?』
(目の前で繰り広げられる出来事にまだ頭の整理が付かない。
しかし青年の口から発せられた“上等な薬”という単語に冷や汗が落ちる。
薬の売人など五万といる。相手だけじゃない。
必死に己自身を安堵させる為相手でない事を願っては瞳を伏せていて。
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