主 2023-02-11 00:33:03 |
通報 |
(さっさと部屋を出てしまいたかった物の、相手の発言に足を止めては眉を顰める。
酒や阿片といった類の物は常人よりも効き易いという事もあり断ろうとするも口を開く前に売人に襟を掴まれ引き寄せられる。
『腹が立つ男だが…“御前も興味があるなら”と言ったのを御前も聞いていただろう。大人しく従え。』
其れは所詮『興味があると答えろ。』と言う意味。小声でこそある物の売人の声色には圧が強く込められていて。
『御前が一言答えれば今夜の売り上げは約二倍だ。報酬も増えるぞ。早く言え。』
襟首を掴む売人の手に力が込められる。
小さく舌打ちをすれば相手に向き直り、心底嫌そうに眉を寄せたまま「分かった。“興味がある”。此れで良いか。」と。
売人は満足そうな笑みを浮かべると持参していた風呂敷袋から小さな布袋を取り出し『一両で構わん。“次”があった際は定価の金額を貰う事になるから大事に使う事だな。』と相手に言い。
売人が徐に布袋を開け、約三分の一の量を己の分け前用にと相手と自分の目の前で分量しようとしたその刹那。
その独特な阿片の香りに鼻が貫かれ思わず袖で口元を覆う。
瞳孔が開き始め己の牙の違和感を感じ、耐え切れず売人の男に「分け前は、_ッあんたが持っててくれ。後で受け取りに行く。」と吐き捨てる様に言い一目散に其の場を後にして。
(時刻は既に深夜。足早に街を抜けいつもの丘に向かうも深夜見回りの町奉公の者に腕を掴まれる。
『なんだ御前。そんなに焦って…それにその身形、怪しいな。』
此方を訝しんでいる様子の町奉公の男に頭を覆っていた布を強引に奪われる。
己の顔を提灯で照らすなり町奉公の男は尻餅を付き『ば…化物!!!』と叫んだ。
腕が解放され未だ恐れを成している男になど目もくれず街を走り抜ける。
林を抜ける頃には自分でも気付かぬ内に四足で走っており、真白の刀を咥えたまま漸く丘に辿り着く。
其の頃には既に人間の姿は忘れており、銀毛の狼の姿で。
大木の下にて崩れ落ちる様に倒れると、ゆっくりと呼吸を整える。
阿片の香りは、特に苦手だった。
先程の町奉公の男の“化物!!!”と言う叫び声と共に、幼少期、阿片に狂った父親の姿を思い出す。
疲れた身体に冷たい風が心地良く感じ、やけに近い月を見上げては暫く身体を休めていて。
トピック検索 |