主 2023-02-11 00:33:03 |
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(いつもよりやや早めに目を覚ました朝方。思い返すは昨夜の事。青年の提案に言葉を返せないまま依頼主の屋敷まで訪れてはまだ悩まし気に眉を寄せる。
己より僅かに年下であろう青年の境遇を思えば断る事もできず、尚且つ青年の世渡り上手な一面など知る由も無く「さっきの誘いに乗ってやる。ただし俺の邪魔はするな。」と言葉少なに返答して。
屋敷に入るなり青年の言葉巧みな交渉により依頼主も暫し悩んでいる様子。
しかし青年の『貴方達に悪い様にはならないよ。裏切らない限り。ほら、俺が村ごと焼き尽くしたすごい噂はもう知ってるでしょ?』といった発言に依頼主は表情を変え二つ返事で首を縦に振り。
屋敷を後にするなり先程の青年の発言を掘り下げる事も無く、別れも告げないまま青年とは反対方向に裾を翻す。
昨夜の事を思い出しつつ、面倒な事にならない事だけを願いながら顔を洗い縁側で一服をしていた所でのそのそと起きて来た年少の少年が『あれ。兄ちゃん早いね。』と声を掛けて来た事に気付き其方に視線を向ける。
「お前も随分早起きだな。」
『うん。華ちゃんがね、早寝早起きできる子は格好良いって言ってたから。』
「友達か。」
『爛兄ちゃんも知ってるでしょ。お泊まりに来たお姉ちゃん。華ちゃんって言うんだよ。菊先生の妹なの。』
(少年の言葉に驚く。思い返せば名前も知らなかった。きっと何か訳有りなのだろうと問い掛ける事もしなかった。
相手と良く似たあの女性は相手の妹だったのかと、すんなり納得してはふと相手の事を思う。
もう暫くまともな会話をしていない気がする。
「-こんな事になるくらいならば、もっと、沢山の想いを言葉にすれば良かった。あんたが嫌がる程、小っ恥ずかしい甘い台詞でも吐いてやれば良かった。-」
「-もしまたあんたと巡り会えたなら、其の時は、-」
『___ちゃん!兄ちゃんってば!』
(少年の言葉にはっとする。
『何急にぼうっとしちゃって。』
(唐突に脳裏に浮かんだ、恐らく己の先祖と思しき男の姿。
悲しげな其の後ろ姿に、行き場のない苛立ちを覚える。
己にどうしろと言うのだ。
朝餉の時間が近付き、起きて来た子供達の姿に正気になれば己も着替えを済ませ街にでも向かおうと。
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