主 2023-02-11 00:33:03 |
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(時刻は夜。昼間偵察に出向いた甲斐もあり青年の部屋は掴めている為颯爽と花街へと向かえば人目を避ける為屋根へと駆け上がる。青年の部屋はこの辺りだった筈と記憶を呼び起こしながら屋根の一角を拳で叩き音を確認する。…も、明らかに不審な点があり眉間に皺を寄せる。内側から処理を施されているかの様にやたらと響く音に不信感を持つも屋根板を引き剥がす。あっさり侵入できた屋根裏部屋。飛び降りた位置の足元をまた軽く拳で叩き板を剥がそうとしたした物の、驚いた事に既に板は剥がれておりただ被せられているだけの状態で。
依頼がバレて罠でも仕掛けられたのだろうかと、そっと部屋の様子を覗き込めばぱちりと目があった青年に冷や汗を溢す。
『兄さん!ここ!早く引き上げてー!』
(小さな声で言いながら手を伸ばす青年。今回の依頼内容は青年にも伝わっているのだろうかとすら思ったが青年はあくまでも囚われの身である筈。そんな事は有り得ない。
上半身を真下にぐっと身を乗り出し、片手で青年を抱き抱えては屋根裏部屋へと持ち上げる。
見付かっては面倒だと駆け足で花街を拭ければ青年は呑気ににこにこと微笑んでおり『ありがとー!あそこ、退屈だったんだよね。』と礼を述べて来て。
「勘違いするな。あんたの為にやったんじゃない。俺は人攫いだ。」
『え!!!助けに来てくれたんじゃ無いの!!!』
(騒がしい青年に頭を抱えるも不思議な事に逃げ出そうとする素振りは無い。此の儘引き渡しまで大人しくしてくれれば良い物の油断は禁物。しっかりと青年の腕を掴んだまま大股で裏道を歩いていれば向こうから来る人影に気付き青年の口を塞いだまま物陰に隠れる。
『ほら露草。ちゃんと腕組んでよ。全く、全然慣れてくれないんだから。でもそんなところが可愛いんだけどね。』
(響き渡る兄の声に思考が止まる。恐らく向こうから来るのは相手と兄。ここ最近では一番会いたくない存在だった。
一瞬緩んだ手元。
『もう兄さん!乱暴にしてくれちゃって、』
慌てて再び青年の口を抑えるも時刻は既に夜中。
静寂に包まれる路地裏に青年の声は響いており。
近付く足音に冷や汗が垂れる。
『…爛?何してんのそんな所で。』
(真後ろから掛けられた声に諦めた様に向き直る。
『え、何してんの。君大丈夫?』
(兄は己の腕の中でばたばたと暴れる青年に話し掛ける。致し方無いと口を開く。
「依頼で『兄さんに一晩買われたの!』」
(満面の笑顔で答える青年。青年の唐突の発言について行けず開いた口が塞がらないままでいれば兄に肩を組まれる。
『爛も男だね。』
「触るな。違う。こいつはそんなんじゃ、」
『酷いよ兄さん!ここまで連れて来といて今更話は無しなんて言わないよね!』
(慌てて弁解をしようにも聞く気配も真実を話させる気配も無い。相手の顔を見れないまま青年が余計な作り話をし続けるのを防ぐ為強引に其の場を後にして。
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