主 2023-02-11 00:33:03 |
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(翌日、寺子屋へと向かう子供達を見送りながら相手に団子の礼すら言えずにいる此の儘の状況にもどかしさを感じていて。
子供達に「団子を貰ったから、礼を言っておいてくれ。」と一言言うだけの事など容易い筈なのに行動に移せない。
今夜の依頼の前調べにと真昼間の花街の奥、見世物小屋がある場所まで訪れては店主に金を払い、特別に見世物である者達の見物の許可を貰う。
『真昼に来る観客は少ないんだがね。お兄さんは物好きだ。気に入ったのがあれば金額交渉も承ろう。』
(店主の下卑た笑みを尻目に裏口から中へと入れば中には沢山の部屋。扉には小さな覗き窓が付けられている。
手当たり次第順番に見て行く物の、これと言って目立つ“赤髪”は見付からずに困っていた所。
『嗚呼、まだ一人いるんだ。脱走癖のある餓鬼でね。一番奥の二重扉の部屋にいるよ。見て行くかい?』
(店主の言葉にこくりと頷けば案内された部屋の覗き穴をそっと覗き込む。
薄暗い部屋の中から『わぁ!びっくりした!』と声が聞こえたかと思えば瞬時、部屋の中が明るくなる。
『ごめんごめん。真っ暗で俺の顔見えなかったでしょ。』
(覗き穴越しに満面の笑みを此方に向ける青年の髪は人目を奪う程の赤。
そして其の少年の手から燃え盛る炎が薄暗い部屋の中を明るく照らしていた。
『あの餓鬼は炎人間。身体の至る所から炎を出現させる事が出来るのさ。うちの一番人気だからな。あれはそう簡単には売ってやれないが、どうしてもと言うのなら考えてやっても構わない。ただし値は張るぞ?』
店主の言葉に頭を悩ませる。攫わずとも金を払って仕舞えば良いのでは無いかとも思ったが見世物に売られてる人間の素性など知れないし、依頼は忠実に言われるがままに実行するのが安牌。
「いや、いい。手間掛けたな。」
(店主に手短に礼を言っては裾を翻すも、扉がガタガタと鳴れば『え?ちょ!兄さんもう行くの!?』と青年の声が響き。
何も言葉をかける事も無く其の場を後にして。
(其の頃、兄はいつもの如く寺子屋へと向かっており。
手には物珍しい外国の焼き菓子。
『胃袋から掴んで行こうなんて、俺ってばいじらしいんだから。成長しても餌付け癖は変わってないんだろうなー。』
呑気に独り言を溢しながら寺子屋の門を潜った所で庭を掃き掃除している妹の姿を発見しぴたりと動きを止める。
『あら。こんにちは。』
『びっくり…してる筈なのに、不思議だな。俺君と初めましてな気がしないよ。』
『兄さんと顔が見てるからかしら。…でも奇遇ね。私も、なんだか不思議な感じ。』
『一応挨拶ね。寺子屋のお手伝いしている霧ヶ崎爛でーす。』
『…の、お兄さんの燐さんね。兄さんから聞いてるわ。ふふ、騙せると思った?』
(妹の柔らかい微笑みに釣られて表情を綻ばせるも、兄は部屋の中にいる相手の姿を見付けるなりばたばたと其方に駆け寄れば焼き菓子の箱を相手に手渡して。
『あ、団子。渡しといたからね。』
(思い出した様に一言言えば其の先を言う事は無く箱を開けるように促して。
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