主 2023-02-11 00:33:03 |
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(倒れ掛かる女性を咄嗟に支えては近くの石造りの階段に座らせ鼻緒の切れた草履を受け取る。
孤児荘の子供達は走り回り良く草履を壊す。
慣れた手付きで額の布を噛み切り草履の応急処置をしては無言のまま女性の荷物を取る。
「寺子屋だろ?案内する。」
(正直今寺子屋に行くのは気が引けたが危なっかしい様子のこの女性を一人で向かわせる方が後味が悪い。
柔らかく微笑み礼を言う女性の其の様子や顔立ちがどうしても相手と重なり、ふと無意識に顔を逸らしては寺子屋へと歩き始めて。
(寺子屋へと辿り着き玄関を叩くもどうやら留守の様子。
困った様に眉を下げる女性を尻目に、兄の所にいるのかと身勝手な嫉妬心が胸を支配する。
時刻は最早夕方。女性は『あの、ありがとう。充分助かったわ!取り敢えず帰ってくるまで待ってみて、夜までに帰って来ない様子であれば宿を探す事にするから、』と慌ただしく早口で話し始める。
心配を掛けさせまいと早口になる所まで相手とあまりに似ていた。
「連絡はしていなかったのか?今日来るって事。」
『其れは、…してない、』
昼こそ活気の良い町だが夜になればそこそこ治安も悪い。
このまま放って置く事など出来る筈も無く「家に来るか?」と問い掛けては慌てて説明を付け足す。
「此処からそんなに遠くないんだ。見寄りの無い子供達と住んでいるからそこそこ広いし部屋も空いてる。…別に変な意味で言ったんじゃない。」
(女性は暫く悩んだ後、『其れじゃあ、お言葉に甘えて。』と柔らかく微笑む。
女性の素性には触れないまま、孤児荘へと引き返しては頭の中は相手の事で埋め尽くされていて。
(其の頃、兄の自宅。
上等な酒を数本開けては僅かに酔った様子の相手を兄は上機嫌で見詰めていて。
時折兄の表情が切なげに曇る原因は先日見た夢。
兄の脳裏に過ぎる記憶はいつも無音で映像のみだった物の、先日見た夢は音までもが鮮明だった。
『-爛に伝えて欲しい。-』
(記憶の中の相手の言葉。いつも優しい微笑みを浮かべながら話していたのは恐らく自分の事では無かったのだろうと兄は何処と無く察していた。
幼少期、兄はいつも金を稼ぐ為に接待していた裕福な客から貰った菓子を己の元に良く届けてくれていた。…が、其の様な記憶は己自身残っていなかった。
父に己を家畜の様に扱う事を強要されていた事もあってか優しい態度で渡した事なんて無いに等しかった。
幼い頃、己にと持ち帰った団子を床に敢えて落とし『食べて良いよ。俺はさっきたらふく食べたから。』と言ったのを今でも兄は覚えていた。
うとうととする相手の髪を優しく撫でる。
『あの時はさ、爛が団子食べてみたいって言ったから俺は客に団子を強請ったの。其の前も。』
(独り言の様に呟きながら相手の頬を撫でては『…露草は渡したく無いんだよな。仕事でも演技でも、俺今が一番楽しいもん。』と小さく呟いて。
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