人魚くん 2022-12-05 23:13:05 |
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そうなのか...
( この子の生立ちも何も俺は知らないけれど、きっと不自由なこの世界に来て短期間の内に嫌な思いを何度もしただろう。自分も“大きい人間”の一人だ。申し訳なく彼の苦笑を見て悲しさを覚えたのだが。回るフープ、物を上手く使いこなす彼の身体能力の高さには常々驚かされて。もっとアルを知りたいな。その気持ちが膨らんだ時、彼の震えた手に気づいた。少しの前置きの後、静かに耳を澄ます。小さくて美しい、まるで水中に溶けて消える泡のように儚い声音に。昔本で見た“人魚の歌の伝説”を思い出していた。目を閉じて聴き入っていたが、ふと歌が止まるとゆっくりと目を開ける。見据えた先の形の良い唇が申し訳なさそうに言葉を紡いだ。「 下手くそ...だなんて。何言ってんのさ、すごく上手いよ。」ゆるく首を振って否定する。「 ...ふは、嬉しい時っていうより...その人を、褒めてあげたい時、かな? 」君の可愛らしい無垢な笑顔を見る度に安心する。一度マイクを置くとしっかりと両手を叩いて拍手して見せて。「 聴かせてくれてありがとう!アル、」わざとマイクを通さず、大きく口を開けて口パクで感謝を伝えて。
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