匿名さん 2022-11-22 12:40:22 |
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(どれだけ拭っても零れ落ちる雫は止まるところを知らず、さながら決壊した土手か底の抜けた瓶のよう。自らの涙の理由も理解しないままに口を開いたところで、意味の通った説明などできるはずもなく、焦りが呼吸を詰まらせれば控えめに嗚咽が漏れた。辛くも悲しくもないのだと、彼らにはひとつの落ち度もないのだと、そう伝えたいのに上手くできない。青年から矢継ぎ早に投げかけられる問いには首を横に振ることで何とか答えているものの、その速度についていくのがやっとで、開いた唇から零れるのは困惑を孕んだ母音だけ。別の意味でも泣きそうになりながらへにゃりと眉を下げ、いよいよパニック寸前と言った様子でしゃくり上げていれば、ついには青年の問いすらもきちんと拾えなくなってしまって。気付けばフォークも手から離れて皿の端へと転がり、両手で目元を擦りながらひたすらに首を横に振ることしかできない。「ぁ……ちが――ちがく、て……っ、わ、たし……」しかしそんな時間は長く続かず、不意に静止の色を伴った声が帳のように降りてくれば、自分の名が呼ばれた訳でもないのに思わず動きを止める。同時に青年からの問いかけも止んだため、何か言わなくちゃ――そう思って顔を上げようとした矢先、頭に触れる優しい感触に、濡れた睫毛を大きく揺らすように一度瞬いて。そのまま宥めるように触れてくれる手と、ごく小さな声音で告げられた一言はまるで福音のようで、自分でも驚くほどにすんなりと受け入れられた。次ぐ仕切り直すような言葉には唇を噤んだままこくりと頷くことで返事に代えれば、最後にもう一度だけ袖口で目元を拭ってから、再びフォークを手に取って。擦り過ぎて赤くなった目元がひりひりと傷むのを感じつつ、やり直すように再度オムレツを口へと運ぶ。味わうようにゆっくりと咀嚼し飲み込んだのちに、スープやサラダ、ベーコンやパンへと次々に手を伸ばせば、それぞれ一口ずつを口にしてから顔を上げて。瞳に涙の名残はあるものの綻ぶような笑みを彼らへと向けては、今度は抱えたものが零れてしまわないように、目の前の食事に集中することにして食べ進めていき)
――――おいしい、です……っ! ありがとうございます。ジルさん、ノトムさん。
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