匿名さん 2022-11-22 12:40:22 |
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(暖かな色をした無垢の双眸は、口に出すより多くを語る。少女がトレイ上に並ぶ料理の品々に釘付けになり、夢中で丸っこい瞳を煌めかす様は、それを供した料理人にとって至高のリアクションで。生活のため心ならず始めた飲食業とはいえ、この瞬間ばかりは毎度心の表面を清涼な充足感が撫で行く。店内に他に客がいないのを良いことに近くの席から椅子を引き摺り寄せると、二人の客からおおよそ等距離の辺りに位置取って腰を下ろし、青年のいる側に軽く肘を置き。適度に気の抜けた姿勢で真っ先にオムレツに手を付けたらしい少女の食事風景を眺めていると、ふいに笑みを向けてくる彼女と目が合って、応答代わりの微笑を浮かべる。美味いか、なんて尋ねるまでもなく小振りな口から飛び出した感想は興奮気味で、一生懸命に感動を伝えようとしてくれる彼女にふっと優しい息が洩れる。弾んだ声が失速しだしたことに気が付いたのはそのすぐ後のことで、みるみるうちに薄い膜が瞳を覆い、ぽろりと涙をが零れ落ちるのを目にすると、ぎょっとして体重を預けていたテーブルから身を起こし。すかさず青年が「ど、どうしたんだ?」と当惑した表情で気遣わしげに声を掛けるも、当の少女も混乱しているようで、口を衝いて出るのは戸惑いの声ばかり。青年も青年で、お腹が痛いのか、本当は着いてくるのが嫌だったのか、何か悲しいことがあったのか、とイエスかノーかで答えられる質問に切り替えて思い付く限りの可能性を投げ掛け始め、事態は混迷を極める。――先程までの和やかな雰囲気から一転、落ち着きを欠いた場の空気の中、いち早く平常に復したのはやはりと言うべきかいつだって鳥瞰的な自分だった。焦燥のあまり更に質問を重ねようとする青年を静かに名を呼ぶことで制すると、彼ははっとして短く息を詰めた後、素直に口を噤む。一先ず猛撃が止んだことに密やかに息を吐き出せば、次いで、まるで見つかってはいけないもののように強引に涙を拭った少女の頭上へと手のひらを乗せ。憶測ならいくらでも立てられるが、彼女の隠そうとしたものを出会ったばかりの自分達が無理に聞き出すのは筋違いだろう。「何も言わなくていい」囁くような声音でそうこぼして、落ち着かせるように金茶の髪の上で手を二、三度跳ねさせる。そのまま波が引くようにそっと手を退ければ、またテーブルに肘を置いた姿勢に戻り、努めて明るい声を出して食事の続きを促して)
――さあ、冷めないうちに食べてしまいな。
(/いえいえ、どうかお気になさらず!セラフィナ様および背後様からのお返事を、日々の楽しみとしてお待ち申し上げておりました。お忙しい中のご連絡とお返事、ありがとうございます……! まだまだ寒い日が続きますので、どうぞお身体にはお気を付けてお過ごしください。/蹴り推奨)
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