匿名さん 2022-11-22 12:40:22 |
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(視線の先で彼の表情が緩めば、感謝の気持ちがちゃんと伝わったらしいことに安堵する。テーブルを取り巻く空気は優しく、差し込む夕陽のように穏やかで。どこか懐かしいような気持ちになるのは、そして少しだけ寂しくも感じてしまうのは、いったいどうしてなのだろう。答えを求めるように橙の花弁に視線を向けても応えがあるはずもなく、それを”郷愁”と呼ぶのだと知ることになるのは、きっともう少しだけ先のお話。そうして抱えた感情の輪郭を掴めずにいれば、自身の名を呼ぶ声に視線を上げて。残された言葉と笑みにぱちりと瞬き、心得たとでも言うように頷いた青年と共に再びその背中を見送れば、すっかり当初の目的も忘れてことんと首を傾げ。「――わたしの、番?」そんな様子を見ていた青年が思わずと言った様子で小さく吹き出すのと同時に、くぅ、とお腹が控えめな音を立てる。それでようやく、そもそもここがどういった場所なのかに思い至れば、向けられる微笑ましげな表情が何だかむず痒くて、椅子に座り直す振りで体を揺らして。それから軽い謝罪と共に話しかけて来た青年と言葉を交わしていれば、二人分の視線は自然にカウンターの中の彼の方へ。この位置からでは手元を窺うことはできないが、彼がてきぱきと動くたびにおいしそうな音と匂いが届き、より空腹を自覚するのと同時にわくわくとした気持ちにもなり。やがてトレーを片手に彼が戻って来れば、目の前に置かれた料理に自然と視線は吸い寄せられて。「わぁ……!」どれもこれもおいしそうだが、その中でもひときわ目を引くのは、できたてであると分かるつやつやのオムレツ。それなりの人数分を一気に調理する孤児院では滅多に巡り合えないそれに分かりやすく喜色を示せば、掛けられた言葉に視線を上げてから彼と青年とに軽く頭を下げ。「ありがとうございます。それじゃあ――」きちんと食前の挨拶を済ませてから右手でフォークを手に取れば、ふわふわのオムレツへとそっと差し込む。ほとんど抵抗もなく一口サイズに切り分けることができれば、そのまま口元へと運んでぱくんと一口。次の瞬間にはぱっと表情が輝き、暫しむぐむぐと口元を動かしてから僅かに喉を揺らして嚥下すれば、年相応の笑顔と共に彼の方を仰ぎ見て。そうして勢いのままに感想を口にしていれば、不意にそれがいつかの記憶と重なり合う。思い出を意識するよりも早くじわりと滲んだ視界に困惑したように声を詰まらせれば、頬を伝う雫ごと左袖でぐいぐいと目元を拭いながら、言い訳でもするように言葉を重ねて)
――おいしい! あったかくて、ふわふわのとろとろ、で……。あれ、えっと……違う、んです。オムレツ、すごくおいしくて……なのに、なんで……。
(/大変長らくお待たせいたしました……!漸く時間が取れましたので、お返事を返させていただきました。暫く空けてしまって誠に申し訳ありません。
また、新年のご挨拶もありがとうございます!改めまして、明けましておめでとうございます。こちらこそ、本年もどうぞよろしくお願いいたします……!)
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