匿名さん 2022-11-22 12:40:22 |
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(衒いのない言葉と向けられた笑顔は”褒められた”と受け取るには十分過ぎるもので、嬉しく思うのと同時にどこか誇らしいような気持ちにもなる。けれども緊張と気恥ずかしさが手伝ってそれを上手く表すことができずにいれば、伏し目がちに視線を彷徨わせた後に小さく頷いて。それから立ち上がる彼を目で追うように一拍遅れて顔を上げれば、その瞳が手元の花を映している事に気が付き、同じように視線を自身の膝の上へと落とす。持ち歩くために水を含ませることもしていない一輪の花は、この状況が予想外であったことを端的に物語っているようだ。今も静かに、しかし微笑みながらやり取りを見守っているノトムと名乗った青年。彼に声を掛けられたのは、院長の眠る墓地に向かおうとしてちょうど孤児院の門を出たところだった。孤児院から墓地まではそう遠くないものだから、手向けのためにと摘み取った一輪も、長く持ち歩くことや人目に触れることを想定してはいない。――もしかして、それが何かお店のマナーに違反してしまっているのだろうか。向けられた視線の意味を図りかね、過った不安にそろりと顔を上げたところで、目に入るのは踵を返してカウンターの中へと消えていく背中。声を掛けることができずにそのまま見送る事になれば、ほんの少し困ったように眉を下げる。質問、いやその前に謝罪だろうか。思わずぐるぐると考え込んでいる間に再び彼が戻って来れば、予想していなかった言葉と机に置かれた水の入った入れ物に、きょとんとした表情で瞬いて。まるで花瓶のように差し出されたそれは、形状からして水差しのようだ。こんなものしかと彼は言うが、逆に花を入れるのに使ってしまっていいものなのだろうか。しかしまごついたのは一瞬だけで、ピッチャーが傍へと寄せられたことに背中を押されれば、両手を伸ばしてそうっと花を挿して。西日を受けてきらきらと輝く水と、同系色ゆえによりその花弁の色を濃くしたようなカレンデュラ。温かな店内の風景にその一輪が溶け込んだような感覚に、自然と表情を緩めては彼の方へと視線を向けて)
……ありがとうございます、ジルさん。この子も、きっとよろこんでると思う。
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