匿名さん 2022-11-22 12:40:22 |
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そうか、好き嫌いせずに何でも食べられるのは偉いな。ちょっとだけ待ってな、すぐふわふわのオムレツを持ってくる。――……と、
(初対面の大人に緊張しているのか、礼儀正しくもどこかぎこちない様子の少女は、過去に思いを馳せる瞬間にだけ自然な表情を覗かせる。それだけで、今もその思い出が彼女にとっての心の拠り所なのだと悟るには充分だった。もう戻ることのできない時への追想は、ありふれているだけに共感を呼ぶ。遥か昔に出たきり戻ることがなかったにも関わらず、未だ鮮明に情景が目に浮かぶ故郷を思えば、こんな10歳にも満たない少女が縁の場所を失ってしまった事実に僅かばかり胸が痛み。しかしそんな内心はおくびにも出さず、代わりに子ども用に誂えたやや大袈裟なほどの笑顔を貼り付けては、まず会話内容の肯定と率直な賛辞を。それから確かに承ったことを伝えると、ゆらりと上体を前に倒しつつ立ち上がる。その際、きれいに揃えられた膝の上で、小さな手の中に一輪の花が握られているのが目に入れば、調理台へと向けかけた足を止めて数秒視線を注ぎ。小振りな花弁が数多並んだその花は、花屋に並べられていたというより、ついさっきどこかで摘んできたばかりといった風情がある。一時も離さず大事そうに抱えられているところから、彼女の世話していたという孤児院の庭のものかもしれない。生憎花に関する知識など持ち合わせていないため品種の判別はできないが、一般的に切り口を空気に触れさせておくより水に浸けておいた方が長く持つ程度のことは理解している。辺りを見回し、思い出したように足早にカウンターの内側へと姿を消すと、片手に曇り一つない透明なガラス製のピッチャーを持って席へと舞い戻る。中には器と同様に澄み切った透明な水が半量ほど。まともな花瓶がないことに少々決まりの悪そうな曖昧な笑みを浮かべつつ、緩やかな曲線を描くそれをテーブルの中央辺りに置くと、少女の側へとそっと寄せて)
こんなものしかなくて悪いけど……よかったらこれ。そのままだと花、枯れちゃうだろ。
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