預言者 2022-11-07 02:50:40 |
通報 |
【 番外編 】
預言者の考察 / いずれ消え去る
ウツギと言えばその花のイメージは純情可憐、花言葉もそれを意味するものばかり。種類をも問わず、奥ゆかしい乙女の姿や恥じらう少女の姿を連想すること請け合いのハズである。
それにも関わらず、なぜウツギは男の姿を表明しているのか。(注1)
いくつか可能性は考えられるが、そのうちの一つとしてあげられるのは、ウツギの性質が「空木」ではなく「空の木」に依った場合である。例えば、「そら」であった場合。単に頭上に広がる天気模様を映し出す野外空間、大地の上方、何も詰め込まれていない虚ろの空間、紙も見ずに言えるほどすっかり覚えてしまったこと──意味の例を上げれば枚挙にいとまがない。
ここではウツギは実際に祭り上げられた神体よりも、その呼称に依って自身の内容性を保っている。敢えて言うなら、神体の性質が呼称としての性質に移行したのではないか、ということである。先程は「そら」を例にあげたが、この場合、むしろ「うつろ」がその変異として正しい読みと推測する。「うつぎ」→「うつろぎ」→「うつろのき」。これは一見、時代を遡るかのような変化であるが、ウツギという存在が遡行性を持つ以上はむしろ納得すべき事象である。要するに、「うつろのき」は伽藍堂の神様という、「ウツギという植物に類する神」とは異なった性質を付与されてしまっているというわけだ。
しかしここで、ウツギは選択を迫られたはずである。すなわち、「男」か、「女」か、「無性」か「両性」か。
ここで「男」を選択したからには、ウツギが「男」でなければならない理由があったハズだ。
キーを持つのは「母」あるいは「母胎」という概念であろう。ウツギはその性質上、受粉すること能わず。可能なことは自身の力を継がせるのみであり、受動的な行動──言い換えれば他者主体の刺激を受けての反応──はほぼ不可能と言って良い。そう、ウツギは受け入れるという行為が出来ないのである。それは単純にウツギの対となる存在が居ないということでもあるし、ウツギがそう創られていないということでもある。
また、ウツギ自身の能力は生命を創り出すものではなく、肝要な生理的欲求についてほぼ力を持たない。これは上位存在の神が失敗した理由の一つとして挙げられるが、そもそも、この混乱の世においてウツギの存在は焼け石に水だったのである。要するに彼は、母なる大地としては不足の存在であり──また父としても成ることは出来無い。であればせめて、田の力と言う名を取り入れるべく男の姿を表しているのではないか、というのが見解のひとつである。
・
・
・
(注1)ここでは彼の姿が定まっていないことは問題としない。あくまでその姿が「男」として機能・表明している点のみに着目し、例えその姿が女性体に類似したものであっても、その本質的な構造のみを取り上げる。
トピック検索 |