名前は未だ無い、 2022-10-02 19:29:40 |
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(気が付けば微睡んで舟を漕いでいる、その瞬間が一番幸せかもしれない。使い古した布団とは何年の付き合いか、今晩もまた静かで穏やかすぎる夜を共にするのだ。手元の分厚い本は開きっぱなしの儘に、もう我が眼球には鮮明に映らないぼやけ霞んだ文字列を指でそっと撫ぜる。一体今何処を旅していて、どいつがどんな言葉を放ったのかすら、思い出せない。其れでも満足感だけが胸を満たして安眠へと導く其の紙の独特な香りが愛おしくて堪らなかった。そっと瞼落とし誘われる儘乗ってやるのも悪くなかろう。覚醒めればきっと一寸ばかりの後悔を感じることになるだろうことは予期しつつも夜最大の魔には逆らえず__意識がそこで途切れた。)
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