鍔 2022-09-23 23:31:31 |
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( 背中を見送り一息つく。力が抜け、肩が下がると共に、体を包むような眠気を感じて小さく欠伸を。預けられた紙袋を提げ、満腹の管狐を外に出して納屋を閉め、温かな布団の待つ寝室へ続く廊下を急ぐ。
夜更けの本丸は少し怖い。翌年には二十歳を数える身で何を言っているのか、と自分でも思うが、誰に吐露するでもない恐怖を抱くくらいは許そうか。しかし、幼き日に過ごした父の本丸では恐れを抱いた覚えはない。まさか年を経て怖がりになったというのだろうか。──こんなことばかりを考えているから心に鬼を作る。何か楽しいことでも、と思い浮かべるのは、久方ぶりに顔を合わせた友人のこと。小鳥か蝶々のようなあの仕草を思い返す中、ふと例の〝おまじない〟とやらが頭を過る。つい忘れていた。試すと言った以上、嘘にするわけにもいかない。
私室で主の帰りを待つ寝具の横を通り過ぎ、明かりを点けて脱衣所へと入る。壁に張られた鏡に映る梔子色を確と見つめ、頬を数度叩いて気を引き締めてから、躊躇いがちに一言「あなたは立派な主です」と。当然ながら返事はない。込み上げる気恥ずかしさに気付かない振りをして、「霊力の扱いも上手で」「主らしい毅然とした態度を崩さず」「政府からの期待を裏切らない」「くよくよと思い悩むこともなく」「常に前だけを見据えて」「…」褒める度、反対の言葉が自分に突き刺さる。これは目標の再確認だ。己への叱咤激励だ。現状に甘んじてはいけない。強く唇を噛んで暫し虚像を睨め付け、就寝前に不適な気持ちを滾らせたまま脱衣所を後にする。そんな状態であっさりと眠りにつけたか否か、お察しといったところ。)
( 早朝の柔らかな日差しを受ける執務室。本来近侍である自分がなぜ部屋を追い出されたかというと、今日も今日とてあの監査官の教育係を命ぜられたからだ。我が主は監査初日の態度を未だ根に持っているらしく、「とにかく仲良くしなさい」なんて、まるで三つか四つの幼子に向けるような言葉を預ける始末。己が畑弄りや馬の世話を好まないことも彼女は把握しているだろうに。早いところ一通り教えて執務室に戻りたいところだが、さて。
戸を引いてすぐ、相も変わらず姿勢の悪い立ち姿が目に入る。既に気に入らないが、昨日と同じくある程度真面目に業務に取り組むのであれば、こちらとしても無礼げな態度を取るわけにもいかない。翡翠の目を弓なりに曲げ、愛想のいい笑みを浮かべて挨拶を )
やあ、おはよう。
殊勝だね。もしや部屋で眠りこけているのではとも思ったが、僕の杞憂だったようだ。
(/ 今週もお疲れ様でした!お休みとはいえお疲れのことと思いますので、お暇なときにでものんびりとお付き合いくださいませ。当方は予想通り本日はそわそわしっぱなしです~!あと一時間半ほどが待ち遠しいです、そわそわ…。今日一日浮き足立っていると思いますが、どうかご容赦ください笑。)
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