鍔 2022-09-23 23:31:31 |
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( 背後からの声にびくり飛び跳ねる両の肩。しゃがんだまま肩越しに振り向き、そこに居るのが主とわかると、「…なんだよ、ビビらせんなよな!」と脱力した様に項垂れて。歌仙や長谷部だったら長い夜になるとこだった、と心の声を憚らず口にし、胡座をかいて両手を後ろに突く、寛いだ姿勢へと。
それで顕になったのは、部屋の奥側で幸せそうに油揚げを頬張っている小さな小さな管狐。はぐはぐ、むぐむぐ、もっきゅもっきゅと頬を膨らませながら目を細くしている、ご機嫌狐のお出ましだ。軈て可憐な主が訪ねてきたのに気づくと、悪さがバレた稚児のように目を真ん丸にして固まってしまう。霊狐のて、夕餉後の間食に罪の意識はあるものなのか。そろり、と食べかけの油揚げを咥えたまま後ずさるも、この空っぽの納屋の中では別に後ろに逃げ場もない。
手を出してまろい頭を撫でると、「ずっと食べたかったんだよなァ?」と寄り添う声をかけながら耳の辺りを掻いてやろう。目論見通り罪悪感が和らいだこんのすけは、それでも恥ずかしそうに己の陰へ引っ込んで主からの視線を遮り、今度はこそこそ夜食の続きを。
黄色い背中の撫でつけながら主の方を振り仰ぐ。最早堂々たる態度で、何もおかしいことはしていないという顔をしてみせる。己の素の人柄が小動物を慈しむそれに到底見えやしないことなど、塵ほども分かっていないし。傍に置かれた紙袋が万事屋通りの店を示す判をおされているのも、それで計画性がひしひしと伝わるのも、強引に誤魔化す算段だ )
俺、実は狐が好きでさぁ。おまけにこんな小さいとなりゃあ、可愛がってやりたくもなるだろ。
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